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中編
◇あの日、桜の下で。
 

 下駄箱のある正面玄関から校門までの間には、ブレザーの左胸に造花を付けて革製の筒を持った同級生達が泣いたり笑ったりしている。
 その溜まりの中から少し離れてぼんやりしていると、ぽんと肩を叩かれた。

 見れば、行事に意気込んで弄ったらしい髪のクラスメイトである佐東がいて。


「倉科、打ち上げ行くだろ?」


 ニッカリ、と笑う佐東にひとつ頷いて、視線を四方に向けた。

 ……いない、な。


 誰を探しているのか、自分自身もよくわかっていなかった。
 だけど視線はきょろきょろと辺りを見回していて、目的の人物がどこにもいないことが分かると何故か落胆する。


「どした?」
「……いや、」


 なんでもない、と意味を込めて短く返せば、隣の同級生はそれ以上何も聞いては来なかった。
 佐東は小学校低学年からの付き合いで、信頼出来る友達のひとりでもある。
 だから多分、俺が誰かを探している事を知っていて、それが誰なのかも知っているんだろうなと思った。
 ひとつふたつ、相談のようで独り言のような話をした事があるから、勘が鋭いこいつのことだから何かしら気づいてんだろうなとも、思った。


「あーあー、よくあそこまで泣けるよな。女ってさ」


 呆れたような声が隣から聞こえて、視線が無意識に泣き群がる女子生徒に向いてしまった。


「…素直なんだろ」
「そうかあ?」


 知らないけど。
 卒業くらいであそこまで泣くのは、ある意味女の特長みたいなものだと思っている。
 ああして泣いても、すぐに切り替えられるのだから器用なもんだ。
 悲しいのか、寂しいのか、空気に流されたのか。会えなくなるわけじゃないと知っていながら、嘆いて泣いている。


 もし。
 もしも、あいつが、あの女子たちみたいに涙を見せて、寂しいと一言その口で言ったなら、俺は、どうするんだろうか。
 なんて、また無意識に人を探すように視線をさ迷わせた。




 遠くで、誰かが名前を呼んだ。


「───須藤ー?」


 自分が呼ばれたわけではないが、その名前に反射的にそちらを見ても、本人はいない。
 でも。

 遠く、校庭の方から聞こえてきた微かな声に、俺は身体中が波打つような感覚を知った。








 この気持ちを自覚したのは中学三年最後の春、卒業式の後。
 よく話したわけでもなく、特に関わりがあったわけでもなく、もちろん連絡先も知らず、その想いは短時間で絶望によって埋め尽くされた。

 残るのは、いつだか校庭の隅で見た、桜の木の下に立ち普段無表情なあいつが柔らかい笑顔を浮かべたその表情に目を奪われたという事実だけ。


 

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