中編
早い者勝ちは必要条件。‐01
色々と慌ただしかった文化祭を終えて振り替え休日が明けた翌日以降、カメは明らかに怯え気味だった。
理由はまあ、当然大森のバカである。とりあえず休み明けの昼休みに大森が来た時、ふざけんなという怒りを込めて脇腹をぶん殴っておいた。
大森は以前のストーカー行為を止めて、姿を見せて近付くようになった。
話し掛けてくるのは俺に対してだが、延長線でカメにも振っている。明らかに好意の分かる目で、さすがに俺も引くレベルなので危険人物認定している。
ただそれ以外に接触はなくて、カメが一人の時は来ないらしい。なにがしたいんだか。
冬休みが数日後になると部活も無くなるが宇佐見は相変わらず準備室に居るようで、カメも放課後はそっちへ行っている。
しかし何故か宇佐見は大森に準備室へ行っているとは教えてないのか、大森は部活が休みになると準備室も開いていないと思っているらしい。
それを聞いた時はあからさまに隠してて笑えた。
その日もカメを見送って帰り支度をしていたのだが、窓の向こうで大森が姿を見せた。カメがいない放課後に来るのは珍しい。
「なにしてんだ」
「かめちゃんは?」
「……さあ、帰ったんじゃね」
「裕弥も居ないんだよなぁ……、上履きはあったし、探してみよ」
あ、これヤバイな。
メールしようかと思ったが気付かなかったらと考えて、大森が余所見をしているうちに咄嗟に電話を掛けた。
『───なにっ』
「おーおー、キレんなって。 お前、いつもん所にいるのか?」
『そうだけど、なにさ』
だよな。
邪魔されて腹立つ気持ちは分かるが今はそれどころじゃない。面倒になる前に帰さないと、と小声で話を続けた。
「いや、お前を探してる奴が居てさあ」
『は?…だれ』
「大森」
電話口の向こうで空気を吸い込む音がした。
『ヤダ、ムリ、会いたくない』
「だろうな。足止めしといてやるから、今日はもう帰れ」
『……宇佐ちゃんと居たいのに』
「アホ。危機感持てよ。ヘンタイ相手なんだから」
今まで無かった動きをされると相手が大森だから危機感が募る。
黙り込んだカメにどうしたのか聞きながら大森の方を見ると、ばっちり間近で目が合ってしまった。その手には携帯で、耳に当てられている。
カメが無言なせいで何かあったのか、と段々不安になってきて再び聞いた瞬間だった。
「おい、どうし───」
「───裕弥、準備室にいるでしょ」
相手は宇佐見か。居場所がバレたらしい。携帯をポケットに突っ込んで踵を返し、足早に行ってしまった大森に慌てて声を掛けた。
「あ、おい!大森!」
無視。しかもアイツ走りやがった。
「カメ、たぶんアイツそっち行った。怖い顔して」
『え、やだ、…会いたくな、い……』
やっと応えたと思ったら、カメは言葉を途切れさせて何も聞こえなくなる。
微かに宇佐見の声が聞こえた気がしたが、そのあと通話が切れてしまって思わず舌打ちをした。
どうするか………、あ。
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