中編
10
聞きたいことや言いたいことは済んだが、宇佐見にもバレてたとは思わなかった。大森と違って接触なんて殆ど無かったのに、そんな分かりやすいかと懸念したが宇佐見は大森に聞いたらしい。あいつマジでぶん殴ろう。
「まあ、とりあえずお前らが両想いみたいで良かったわ。さっさとくっ付けよ」
「……分かってはいるけど、タイミングが…」
「うっせぇ作ってやるよそんなもん」
「え、」
自分でも開き直ってる自覚はある。
カメが慌ててこっちに走ってくるのが見えて、言いながらもすぐに立ち上がれる体勢に戻した。その直後に腕を捕まれて、カメが宇佐見に何か言ってはいたが宇佐見はぽかんとしたまま見送っていた。
カメは俺の腕をつかんだまま走り、「やっぱり話聞いて下さい」と叫ぶもんだから、流石に笑ってしまった。
大森に何を言われたんだろうな。
ただの告白ならこんな慌てないだろうし。
疑問ではあったものの、いざ話を聞くとアイツの危険度が増しただけだった。
だから煽り方考えろよ。怖がらせてどうすんだあのバカ。
「……とりあえず様子見な」
「うん……」
カメは冗談か本気か分からないとは言っていたが、ある意味本気だしある意味冗談でもある。
あのバカが今後どうするのかは気になる所だが、流石に襲ったりはしないだろうとは思いたい。気持ち拗らせて変態度のレベルだけカンストしてそうだ。
カメが落ち着いて眠った後、濃い一日だったなと疲れてはいたものの亮平さんからのメッセージに目を通して返事を送ると、珍しく電話が掛かってきた。
「、はい」
『もしもし、お疲れ美咲。文化祭どうだった?』
なんだか亮平さんの声を久しぶり聞いた気がする。一応毎日ボイチャしてんのにな。
「楽しかったですよ、忙しかったけど」
『なんかあった?』
あった。めちゃくちゃ沢山あった。
面白いやら面倒くさいやらで話したいことが沢山あって、デスクチェアに座ってグルグルしながら文化祭中や打ち上げ後の事を愚痴のように吐き出すと、亮平さんは『凄いな』と笑った。
『……美咲は大丈夫?』
「え、なにが、」
『辛くない?』
「……、」
大森や宇佐見の言動に持っていかれて、自分の気持ちとかあんまり考えてなかったかもしれない。
でも宇佐見もカメが好きなんだと知った時、嫉妬より先に来たのは安心だった気がする。
「……アイツが幸せになれんなら、それで良いんです。俺はあいつらの背中を押すしか出来ないから、せめてそれくらいしないと納得出来ないだろうから」
辛くないとか大丈夫とかは言えなかった。でも亮平さんはそれについて追求する事はなく、そっか、と優しく言ってくれた。
『そういえば冬休みっていつから?』
「来週ですね、週末から」
クリスマスイヴは日曜日になってるから、ちょうど冬休みに入ってるしアイツらがくっついたらクリスマスデートでも嗾けてみるか、と考えながらカレンダーを眺める。
『冬休み入ったら沢山出掛けるぞ』
「え、」
『バイト?』
「いや、いつもよりは少ないかも…」
『じゃあ行こうな』
「え、あ、はい」
くすくすと笑う声に何故か恥ずかしくなって、足下を見ながら椅子を揺らした。
なんでこう、この人の言葉は落ち着かなくなるんだろうか。さっきまで同級生達と居た時と違っていて、自分が気持ち悪いと思ってしまった。
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