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中編
02
 


 大森を追って準備室に向かう途中、一応またカメに電話をしてみたが出なかった。バカになんかされてるとか止めろよ、と願いつつも早足で廊下を抜け、階段を掛け上がると大森の声が聞こえる。
 扉が開けっ放しの理科室から準備室の扉を開けると、大森が不機嫌そうに立っていた。


「宇佐見居ないのか」


 言いながら周囲を見て、一番手前のテーブルに学生鞄がひとつだけある事に気付く。
 アイツの鞄じゃない。でも今の早さなら下駄箱までの道で大森と遭遇する。逃げただけなら良いけど、宇佐見まで居ないのはなぜだ。


「俺はカメちゃんを探してんだよ」
「誰もいねぇけど」
「裕弥はトイレって言ってたけど、まだ戻って来ないし。カメちゃん居ないし」
「あいつのカバンねぇから帰ったんだろ」
「は?───あ、マジだ」


 とりあえず大森には帰ったことにしておくしかない。本当に宇佐見がトイレなのかは疑問だが今はこのバカを諦めさせて帰さないと。

「諦めて帰れよ。今日用事あるとか朝言ってたし」
「……ちっ」


 舌打ちすんなぶん殴るぞ。


「そういや宇佐見、俺がここに来る途中職員室で見た気がする」
「……はぁ…、カメちゃん……」


 重症な変態の背を押して準備室から出し、扉を閉めつつ振り返った。
 奥の方には古びた教卓や机が積まれている。


「羽田、職員室で見たって言った?」
「あー言った言った。さっさと行けよ変態」


 しっしっと手を振って大森を理科室から追い出し、妙な疲労感に溜め息が出た。最近幸せ逃がしてばっかだな。
 静かになった室内で暫く大森の足音を聞き、準備室の扉をゆっくりと開けた。多少の音は気付かないだろう。
 準備室の奥にある教卓へ真っ直ぐに向かい、静かに頬杖をついた。


「───イチャイチャしてるとこ悪いんだけど、」
「…っ!?」


 これ前にも言ったな、と思いながら慌てて出てきたカメを見ると顔がゆでダコみたいに真っ赤で笑う。


「よお」
「いやいやいや、なんで?」


 いつから居たの出ていったよね、と顔に書いてある。
 焦りしかないカメに続いてゆっくり出てきた宇佐見は、不機嫌そうな顔で俺を見てくる。邪魔して悪かったな。


「いい当て馬にしたな、お前」
「……」


 教卓の下から上履き見えてたんだけど、大森の視界に入らなかったのは救いだったな。
 こんな狭いところに男子高校生二人入れば、こいつらなら何かしらあっただろう。カメの顔で何となく察する。

 当て馬だとか俺も大森を使ったからお互い様なんだけど、と頬杖を止めて二人を見ていたら、喧しい足音が近付いて来て乱暴に扉が開かれた。


「羽田ぁあぁぁぁ!!!てめぇ騙しやがっカメちゃん!?……裕弥コラてめぇ!!」


 喧しいのが戻ってきた、と呆れていたらカメは大森の存在に怯えた様子だ。すっかり怖がられてんじゃねーか。


「ちょっと無視しないでください!つか裕弥!カメちゃん離せ!」
「無理」
「カメちゃん、こんななに考えてんのか分からない分解構築オタクやめてこっちきて!」
「え、やだ」


 大森の要求に二人して拒絶したが、カメは言った後にしまったという顔をした。
 だが宇佐見はそれを聞いた瞬間、カメを引き寄せて後ろから抱き込むように腕を回した。稀に見る手際のよさだな。


 


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