中編
04
『美咲、どうした?』
「……好きな人が出来たらしいです」
『うん』
吐き出した言葉は酷く重く感じた。
優しい相槌が返ってきて深呼吸を挟む。
「さっき、その話を聞いて……、誰かを好きになるのは良いんです、嬉しい事だから、良いんだけど、相手が、」
『うん』
「同じ、学年の…同性で」
『…、そっか』
「……ずっと考えてたんです、あいつが誰かを好きになったら諦められるって。でもこんなん、納得出来ねぇ…なんで同性なんだよ…」
こんな結果じゃ諦められない。
でも初恋が叶うかどうかなんて分からないが、どんな結果でもきっとあいつは俺をそういう対象にはしないと分かっていた。
同性でも恋愛対象になるんだ、という意識では無かった。あれは、宇佐見だから好きになったんだという確信を持っている。
だから例え叶わずともそれ以降同性を好きになる可能性は殆ど無いし、あったとしても俺を見やしない。
それは俺の確信だった。
あいつの中で俺の立ち位置は、俺が必死に望んで立った場所にある。そしてそれをあいつも望んでいるんだ。
「意識させたらよかったのか、今の関係で最善なのか、分かんなくなってきて、」
『こわい?』
「……自分が怖いです。さっき俺、無意識にあいつに何かしようとしてた」
『……美咲、』
「今は素直に祝福なんて出来ない…ちゃんと応援出来れば良いのに、相手に嫉妬した」
宇佐見は悪くない。分かってる。
受け入れようが断ろうが俺に何か言う権利はないし、あの宇佐見だって同性に告白されたら驚くし引くかもしれない。
カメが傷付くかもしれない。
でも俺はそれを好機には出来ない。慰めてどうこうとか怖くて無理だ。下手したらもう二度と一緒に居られなくなる。
「相手は悪くないって分かってるのに」
『うん、』
「っごめんなさい、愚痴が酷いですね…」
『良いよ、美咲、沢山吐き出しな』
「……っ」
我慢しなくていいから、と言う亮平さんの優しさが痛かった。
それでもそこに甘えるしかなくて、情けない女女しさをひたすら吐き出した。
「……すみません、仕事忙しいのに」
『もう吐き出さなくていいの?』
「はい、喋りすぎました…」
泣きはしなかった。泣きたくなったけど涙は出さないまま、ただひたすら情けない言葉を吐き出した。
亮平さんはそれを相槌だけで聞いてくれて、むしろ今は彼への罪悪感に浸っている。
「聞いてくれて、ありがとうございます」
『俺も美咲の弱い所知れたから良いよ』
「情けないです……」
『そんなことねぇよ。今まで誰にも言えなかったんでしょ』
「今の所は……亮平さんだけです」
『なら許す』
「ふ、なんですかそれ」
変な事言うなあ、とおかしくて笑いが溢れると、亮平さんは『笑ってくれた』と嬉しそうな声で言った。
荒荒しい気分が落ち着いたら急に恥ずかしくなってきた。
『疲れただろ、もうおやすみ。また明日』
「……はい、亮平さんもお疲れさまでした」
おやすみなさい、と小さくなった声を最後にボイチャが切れた。
通話を切りたくないと思ったのは、この部屋に幼馴染みが居るからなのか単純に寂しいからなのかは分からなかった。
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