中編
それしか出来ない。‐01
幼馴染みの告白から気付けばもう文化祭は一週間前で、テストを終えた解放感からか生徒は準備に生き生きとしている。
数日前まで頭の中は靄で埋まっていたけれど、亮平さんとボイチャなり話をしたり会ったりした時だけはそれが晴れた。
心の整理をするには良い時間だったし嫌な気分も無くせたから、俺はカメの恋を見守る決意が出来た。
認められなくても諦められなくても、とにかくアイツが幸せになるならそれで良いんだと自分に言い聞かせて、亮平さんにもそれを伝えたら「いつでも話を聞くから」なんて相変わらず優しい。
なんでそんなに優しくしてくれるんだろう、とは思っても言ったことはない。
荒れた感情のやり場に困った時や苦しくてどうしようもない時、タイミングを見計らったように亮平さんから連絡が来るから、たまにちょっと笑ってしまう。
クラスの出し物はダンスで、準備するのは服装や振り付けだけだ。今まで放課後を使っていたが一週間前は全体練習に集中するため体育館を借りている。
放課後練習初日にカメは無意識に準備室へ行こうとしてたから鼻で笑ってやった。
慣れないものは大変だったが気恥ずかしさは無くなった。でも亮平さんに文化祭の話をしたら案の定「見に行きたい」って言われたが流石にそれは恥ずかしいので、仕事で良かったと心底安心したのは秘密だ。
「───カメー、羽田ー、悪いけど高坂センセー呼んできてくんねえ?」
慣れたとは言え激しいダンスの動きに疲れた為に壁に寄り掛かって休憩中、こっちに来た委員長がそう言った。
不在の担任である高阪にダンスの完成度を見てもらいたいらしい。まあ確かに委員長だけずっと向かい側でやってたし、どうせやるならダンス経験者(らしい)に見てもらいたいわな。
「どうせ資料室でふんぞり返ってるだろうから」
「めんどくさ」
「じゃ、ついでに高坂に飲みもん貰おーよ」
「えー」
疲れたから動きたくない、とぼやいたがカメが苦笑いしながら「喉が渇いたから飲み物を集ろう」なんて言うから、仕方なく立ち上がった。
体育館から校舎に続く渡り廊下に出ると冷えた風が当たって、運動して熱を持った体にはちょうどよく感じる。
隣で腕を伸ばしながら歩くカメは、校舎内で準備に終われる周囲を楽しげに眺めていた。
お化け屋敷やら食べ物やらの看板が廊下に出ていて、その先に見慣れたストーカーとその隣にはカメの初恋相手がいた。
「あ、宇佐見じゃん」
「え!」
カメのあまりの反応速度に素で驚いた。
しかしカメは一瞬俺を見て、その先へ顔を向けた。嬉しそうに、会いたくて堪らない気持ちが分かりやすく表情に出ていてちょっと腹が立つ。
「……」
だけどその明るい顔は一瞬にして強張り、唇は一文字に閉じてしまった。
理由は簡単だ。無愛想がデフォルトの宇佐見が笑みを浮かべていた。それはカメからしたら知らない奴に対してで、知っている俺からすれば親友と談笑する違和感のない光景だった。
相手が宇佐見だから笑っている事に違和感があるだけで、それ以外は何もおかしくない。でもカメは違う。
滅多に笑わない初恋相手が知らない奴と仲良さげに笑ってるなんて、嫌に決まってる。
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