中編
03
───覚悟はしてたんだ。どっかで無意識に力んでいたから聞きたくなかったのはそれもあるのかもしれない。
片想いの相手は初恋を自覚した。けれどその想いは自分ではない他人に向いていて、異性だったら仕方ないと納得出来たのにそうじゃなかった。
話を聞いて息が詰まり苦しくなった事をカメは気付いていない。自分の感情にいっぱいいっぱいで意識する余裕がなかったんだろう。
布団に転がり安らかな顔で眠る幼馴染みを跨いでしゃがみ込み、真上から眺めるその表情が俺に相談出来た事で心底安心したようなそれに虚しくなる。
これで良いんだと思ったのは自分自身だった。けれど現状、そうやって諦められる道を探して逃げ場を確保して、関係が壊れる事を何より恐れた小心者の自分が保った立ち位置の結果がこれだ。
さらさらした頬を撫でる。悩んでいたからか少し痩せたようで、柔らかさがあまり無い。
明日から餌付け量増やすか、と指先を滑らせた。
呼吸がうまく出来ない。
今まで女と遊んでたくせに、なんで好きになったのは男なんだよ。どうせ好きになるなら俺を見ればいいのに。
身近過ぎてダメだったのだろうか。灯台下暗しって言うし、心を許して相談出来る相手だとかいう気持ちがあるから?
無理にでも意識させたら違っていたんだろうか。同性にも恋愛感情が抱けると知った今なら奪えるだろうか───
「───……っ!」
すぐそばで鳴った携帯のバイブ音で我に返った。間近にカメの寝顔があって飛び退くようにベッドへ逃げる。
違う。
こんなことをしたいんじゃない。
傷付けるような事はしたくない。自分のせいで怖がったり悲しい泣き顔なんて見たくない。
携帯を拾って点灯した画面を見ると亮平さんからメッセージが来ていた。
【気が向いたらゲームおいで】って、なんつータイミングだ。
そういや今日はまだログインしてない。
「………、」
何でもいい。
この乱暴な気分を消せる方法はある。すがるような気持ちでパソコンのデスクに向かい、起動させてログインした。
声が聞きたい。話したい。なんでもいいから亮平さんの声が聞きたい。
頭の中で縋って逃げ場にしている身勝手さに嫌気がさしたが、どうしようもない自己嫌悪が荒々しい波を立てていた。
『───大丈夫か?』
「はい、ちょっと、話してて。もう寝てるんで大丈夫です」
『元気ない』
「……あの、」
『ん?』
優しい声に頭がふわりと浮いた感覚がして、初めて抱いた欲求に抗えずに口を開いた。
「……すみません、一回、で、良いんで名前、呼んでください」
『、ハイネくん?』
「そっちじゃなくて、」
『……美咲』
ゲームをする気にはなれなかった。
ただ声が聞きたくて、なんでもいいから話がしたくてボイチャを繋げていざ声を聞いたら、何故か無性に呼ばれたくなった。
いつもの声で自分の名前が聞こえる。
画面を見ずにデスクに額をつけた。
昔から苦手な名前呼びなのに、有り得ないくらい安堵した。
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