[携帯モード] [URL送信]
18


地下駐車場までたどり着いた時、まず自分が息切れを起こしていることに驚いた。
歩いて会社を出たはずだった。
自分が走っていたことに気づいていなかったのだ、俺は。
ここまで必死になっている自分はずいぶんと珍しく、一人きりの冷えた空気が充満する地下で、苦笑した。
一度、大きく深呼吸をして車を走らせる。

愛姫のアパートの前、車中から見上げた先の灯りに、胸を撫で下ろした。
降車して部屋の前で呼び鈴を鳴らし、愛姫が出てくるのを待っている間は、どうにも落ち着かねぇ気分で、自分が緊張というものをしていることに気づく。
ただ、それがどこからきているものなのか、どうしてなのか、自分で自分の心境も理解できていなかった。

ガチャリ、と音がしてチェーンを繋げたままドアが開き、隙間からその向こうを覗く。と、にこりと、笑った顔が待っていた。

「ちゃんと相手を確認してから開けろって言ってんだろうが」
「ちゃんと見たから」

チェーンを外してドアを開き、小さな丸いレンズを指差した。

「嘘をつくな。だったら最初から鎖は外してるはずだ」
「……うん、気をつける」

うつむいた愛姫の頭に手を添え、髪の毛を掻き回してやると、俺を見上げて何ともいえねぇ顔をしてから、おかえりなさいと微笑んだ。
その視線から目を逸らし、靴を脱いで部屋に上がった。

俺は二人掛けの小さなソファに座り、愛姫はテーブルの下に敷かれたカーペットに膝を抱えて座っている。
ジャケットから腕を抜いてネクタイを緩めていると、愛姫が立ち上がり、それらを受け取りハンガーに吊した。
続けて、「あ、コーヒー」と独り言かのように言って、とたとたと隣のキッチンに消えた。
……何を言われるのかを考えてびびってるのか、愛姫も緊張しているように見えた。

何からどう切り出せばいいのか。そもそも何を喋りにきたのかも考えちゃいねぇから、こっちも困るといえば困る。
説教するつもりではいたんだが、それだけでは単純バカのことだ。二の舞を演じるに決まっている。

「ハル、コーヒーできたよ」
「ああ、サンキュ」

トレーを慎重に運ぶ愛姫が部屋に戻ってきた。
顔をじっくりと見る。二匹のクマはうっすらと影を残しているが、顔色がいくらか良くはなったか。




*←→#

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!