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19


愛姫が座ったのは、さっきの場所から少し移動した位置だった。テーブルの向こう側、俺の真正面に正座をしている。
目を合わせようとはせずに、その瞳はそわそわと動き回っていた。

「……起きてから何か食ったのか?」
「ううん、まだ」
「だったら先に食えよ。いらねぇとか言ったら殴るからな」
「いい、いらない」

言ったそばからそのままの発言しやがって、マジで殴ってやろうかと思う。

「アホかてめぇ。どんなに疲れても腹には入れとけ」
「食欲ない……」

そう言うと思っていた。この女は機嫌が良けりゃそれなりの量を食うし、悪けりゃ平気で飯をぬく。……大音量で腹の音を鳴らしているくせに。

「だったらこっちを食え」

分かっているから先手を打っておいた。
立ち寄ったコンビニで買った、ゼリーやヨーグルトを袋から出して愛姫の前に並べる。

「……こんなに……?」
「全部とは言わねぇから好きなの食えよ」

フルーツがぎっしりつまったゼリーを選び、口に含んで美味しいと笑う。
ただし、俺の目を見ようとはしなかった。
他はいらないと言うので、残ったものを冷蔵庫に入れ、灰皿を持って戻った。
当然だが俺の為に買い足したもので、自分が使うとなると、目を背けたくなるような色柄の小さな灰皿だ。

「俺が来た理由は何だと思う」

火を点けて言葉を投げかけると、最後に口に入れた桃の欠片をごくんと飲み込み、そのまま下を向いてしまった。

「おはなし……」
「内容は」
「お、怒ってるんだ……言うこと聞かないから」

相変わらず目を合わせずに、ぼそぼそと喋る。
俺が怒っていると知っているせいで、顔を上げられねぇとか、ガキかお前は。
それにしてもやはりと言うか。……自覚はあったのだ、こいつは。自分が無理をしていたこと、周りが心配していたことも。

「仕事を頑張るのは悪くねぇけどな、自己管理もできねぇようじゃ社会人として使いものにならねぇぞ」
「……ごめんなさい」
「俺に謝ってもどうにもならねぇだろうが。結果的に迷惑がかかるような仕事の仕方をするなら、お前はもう来なくていい」
「……」
「嫌ならもっと考えてから行動するんだな」
「……は、い……」

涙をこらえているようで、震えた声で短い返事をした。




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