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 ハイヱ ツチナ


「あんたと手合わせするのは久しいな」
「…貴様もこちらへ来ていたとは」

互いの刃が噛み合い弾いて、接近していた二人が離れる。

「蝶は相変わらずだな。いつも陰鬱な顔ばかりしていて」

鈍の牙がにかっと笑った。

「貴様は相変わらずヘラヘラしたままか、九尾」

蝶は表情を変えずに答えた。

異界に居た者同士、顔見知りというものがある。

元々仲睦まじくなるような生き物ではないため、牙として向き合っても互いを平気で攻撃するのだが。

九尾の元は猫である。蝶は蝶々であるように。

長い髪はボサボサと疎らだが、そこに立つ耳が隠れていた。ほぼ髪と同化している。

猫特有の目つき、尖った八重歯。

性格も猫らしく飄々としていた。

なぜ九尾と呼ばれるかというと、それは彼の武器に因る。

“九尾の猫”という古代の武具を象ったそれは、九叉の鞭だった。

それぞれにはあらゆる仕掛けがあるという。

「しかし九尾、貴様があのような餓鬼に入れ込むとはな」

牙としての役目を果たさなければ、強制的にも契約破棄という形が取られる。

つまり馬が合わなければ、牙側には逃げ道があるのだ。

「鈍のことはとやかく言うなって」
「はっ、あの餓鬼には何の力もない。言っとくが九尾、凛音は一瞬であの餓鬼を殺せるぞ。…まぁアイツは気に入ってるものを殺しはしないだろうが」

蝶が攻撃の手を止めて唇を歪める。

「凛音は強い。だから俺はアイツの牙としてそばに居るがな…今の貴様は主のせいで糞のように弱い」

鈍に力がないだけ、九尾も力を発揮できないのだ。

元がどれだけ強くとも。

「俺はまだ出せる力の四分の一さえも出していない。だが貴様はあと数分もすれば息が上がるな」

九尾がギッと歯を鳴らした。

蝶の言っていることは正しすぎる。

「今の貴様は、妙な道具が使える人間と変わらん。それでもあの餓鬼に何時までも従う気か」
「…当たり前だよ」

九尾は蝶を睨んだ。

「俺は鈍が死ぬまでそばに居るよ」
「…わからんな」

蝶は眉を寄せて溜め息をつく。

「蝶だって美丈夫さんに着いてくんだろ」「凛音が弱ければさっさと契約破棄しているがな」

飽くまでも強き凛音のために牙となっているのだと、蝶はそう言っていた。

「…お前にはわかんないんだよ」

唸った九尾だったが、ふいに体が重くなったのに気が付く。

「…終わったな。早い」

蝶は低く呟いた。








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あきゅろす。
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