ハイヱ ツチナ
6
鈍の上に馬乗りになり、首に短刀を当てて動きを封じる。
「何の根拠があって‘勝てばいい’なんて言ったんだかな…」
凛音は目を伏せて鈍を見下ろした。
あっさりと命を握られた鈍は体を強張らせて生唾を飲む。
「俺は今すぐお前を一息に殺すこともできるし…逃がすこともできる。強制契約破棄をさせて、身一つで山中に捨ててくこともできるな。それとも…」
凛音は言葉を切るとしばらく黙って微笑んでいたが、刃を退けると鈍の顎を掴んで唇を重ねた。
「んっ…!?」
鈍の体が凛音の下で跳ねる。
凛音は片頬を上げて笑うと、鈍の頬の脇に短刀を突き立てた。
「今ここで犯してやってもいい」
鈍の髪が数本、パラパラと切れて風に舞っていく。
「なんっ…な、おかっ…!?」
「言ったろ。俺は可愛い子が好きなんだ」「絶対嫌だっ」
激昂して叫ぶ鈍の頬を凛音が張った。
「お前に選ぶ権利はないよ。俺は何でもできるけどね…お前が選択できる道は二つ」
凛音は指を二本立てる。
「俺に着いて来るか、または…そうだな、殺すのはあまりに可哀想か。お前まだ若いしね」
鈍はホッと息をついたが、続く言葉にまた体を強張らせた。
「だからここで犯して強制契約破棄をさせて、それから見知らぬ山中に捨てるかな。俺に同行しなきゃそうするよ」
鈍の目が狼狽えるようにしきりに動く。
それから顔を逸らすと小さく呟いた。
「………わかったよ…」
凛音が眉を上げる。
「あんたに着いてく。そしたら…九尾には何もしないよな…」
「九尾?…君の牙か」
鈍はコクリと頷いた。
「旅に同行してくれるならね。君程度が牙を連れてても、俺には何の支障もない」
凛音の言葉に悔しそうに唇を噛んでは居たが、鈍は再び頷く。
「…じゃあ俺にはそれしか道がない」
凛音は口角を上げると鈍を立たせた。
「服脱いで」
「………は?」
「破かれたくなかったら」
鈍が服の合わせを押さえて後退る。
凛音は溜め息をついた。
「上だけでいい。お前の背中にちょっと傷付けるだけだ」
「…何で」
「九尾の動きを封じる」
凛音は答えて鈍の後襟をひっ掴むと、そのまま服を引きずり下ろす。
「ぎゃっ!…ぃっ」
背中を走った痛みに、鈍が涙目になって凛音を睨んだ。
「これで終わり。おつかれさん」
凛音は短刀に付いた血を払うと、ニッと笑って鈍を見た。
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