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 ハイヱ ツチナ


――なかなかしっかりした子だな。

凛音はそう言って鈍を眺めた。

西の出だと紹介されていたが、それは間違いではないのであろう。

西方の者は元々白人種だ。

病的ではなく血色はいいが、鈍も一般的に見れば色白な方である。

恐らく地毛の栗色の髪、利発そうな大きな目。瞳は緑掛かった黒だ。

西方の中心の都は王城街で、つまり国の中心だった。
王城街には旧家や由緒のある屋敷が並んでいる。

何らかの理由で家を出たのだろうか、鈍にはどことなく育ちの良さが伺えた。

「俺に声をかけたのは、てっきりあなたが俺に惚れたとかだと思ってたけど――幾分それはちょっと違っている気がします」

真っ直ぐに凛音の目を見て話す。

「そう違ってはいないな」

凛音は笑って鈍の視線から逃れた。

「何も難しい話じゃない。俺は君が気に入った。だから旅に付き合ってもらおうかと思っただけだ」
「お断りします」

鈍は眉を寄せて訝しげな顔をする。

「俺には俺の事情があるし――何よりあなたは信用するに足らない。少しは自分のことを話してから誘うものです」

くるりと踵を返して、纏めた荷物を手に取ろうとする鈍。

凛音はその後首に短刀の刃を当てた。

「話はまだ、だ。俺のことなり旅のことなり、道中幾らでも教えてやる。君は俺に着いて来るか…ここは一つ」

チッと頬の横を風が切った。

それとほぼ同時に金属の噛み合う甲高い音が響く。

「…奇襲か?」

蝶が低く呟いた。

凛音は短刀を鈍の首から離して後ろを振り返る。

蝶の刀と噛み合うのは、一見するとただの縄か何かのように見えた。

だがそこに仕込みの刃が幾つも埋め込まれているのは、少し観察すればすぐに目に付く。

蝶が刀を払うと、その縄のようなもの――それは主の手元へと返って行った。

「どうもうちの主人が襲われてたようだったんでね」

上から降りて来たのは一人の男――否、それは人の気配ではない。

「鈍の牙だよ。よろしく、美丈夫さん」

にかっと笑ったそこには、異様に尖った八重歯があった。

「さぁ面子が揃ったな。ここは一つ、鈍」

凛音は口角をぐっと上げる。

「牙を持つ者同士、それらしく力を競おうじゃないか。君が勝てばいいだけの話なんだが――」

続く言葉に鈍が身構えた。

「俺が勝ったその場合には、君には俺に同行してもらおう」

四人の視線が絡み合う。








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