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 ハイヱ ツチナ


パチパチと手を叩く乾いた音。

「さっきは素晴らしい踊りをどうも」

その声に勢い良く振り返った踊り子は、凛音の姿を見つけるとホッと息をついた。

「ずいぶん熱心に見て戴いたようで」

軽装に着替えた踊り子は軽く頭を下げる。腰帯に先程の扇子があった。

「あれは何て読む?」

凛音が遠くにある旗を指差す。

「カミクラ、です。座長が神の鞍の出なんですよ」
「なるほど。当て字だったか」

微笑む踊り子に、凛音は顎に手を当て頷いた。

「一座は何処へ向かう予定で?」
「このまま東を下りますよ。でもせっかくお気に召して戴いたようだけど、自分は今日で一座を抜けるんです」

眉を下げ申し訳なさそうな顔をする。

凛音は片眉を上げた。

「あっ、でも自分以外にも素晴らしい芸子がたくさん居ますからね。きっと自分の代わりに新しい舞手も…」

言いかけるのを凛音は遮る。

「俺は別に旅芸人はどうでもいい。気に入ったのは君だよ」

踊り子は一瞬目を見張ったが、直ぐに破顔した。

「それは嬉しいけど…自分は一座を抜ければ舞手ではなくなりますよ」
「それもどうでもいい。俺は可愛い子が好きなだけ」

いよいよ踊り子の顔が引きつる。

「…それじゃあ水を差すようで悪いですけど、自分は男なんですよ」
「そんなこと百も承知だよ。一目見ればわかる」

ついに踊り子は引いたように後退った。

そばに居た蝶が呟く。

「…なるほど。お前が興味を持つわけだ」

踊り子は弾かれたように蝶に目を向けた。

「ところでニビ」
「…何で名前を知ってるんですか」
「一座の連中に呼ばれているのを聞いた。そんなことより、」

凛音が踊り子――鈍を見る。先程までの軽い空気が一変した。

「お前の牙はどこに居る?」

口元に笑みを浮かべる凛音。

鈍は体を強張らせた。

「…何の話ですか?」
「白々しい嘘は面倒だな。お前の背中に牙と契約した紋章があったのを見たよ」

契約を行った者には必ず刻まれるものだ。もちろん凛音の背にもある。

「さっき水浴びしてただろう」
「覗いてたんですか」

鈍は歎息した。

「俺には牙が居ますよ。そこら辺に潜んでるはずです」

蝶が片目を開ける。何も言いはしなかったが。

「でもそんなことはどうでもいいでしょう。問題は、あなたに何の目的があって俺に近付いたのかってことです」

鈍は毅然とした態度で凛音を睨み付けた。







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