ハイヱ ツチナ 3 ――なかなかしっかりした子だな。 凛音はそう言って鈍を眺めた。 西の出だと紹介されていたが、それは間違いではないのであろう。 西方の者は元々白人種だ。 病的ではなく血色はいいが、鈍も一般的に見れば色白な方である。 恐らく地毛の栗色の髪、利発そうな大きな目。瞳は緑掛かった黒だ。 西方の中心の都は王城街で、つまり国の中心だった。 王城街には旧家や由緒のある屋敷が並んでいる。 何らかの理由で家を出たのだろうか、鈍にはどことなく育ちの良さが伺えた。 「俺に声をかけたのは、てっきりあなたが俺に惚れたとかだと思ってたけど――幾分それはちょっと違っている気がします」 真っ直ぐに凛音の目を見て話す。 「そう違ってはいないな」 凛音は笑って鈍の視線から逃れた。 「何も難しい話じゃない。俺は君が気に入った。だから旅に付き合ってもらおうかと思っただけだ」 「お断りします」 鈍は眉を寄せて訝しげな顔をする。 「俺には俺の事情があるし――何よりあなたは信用するに足らない。少しは自分のことを話してから誘うものです」 くるりと踵を返して、纏めた荷物を手に取ろうとする鈍。 凛音はその後首に短刀の刃を当てた。 「話はまだ、だ。俺のことなり旅のことなり、道中幾らでも教えてやる。君は俺に着いて来るか…ここは一つ」 チッと頬の横を風が切った。 それとほぼ同時に金属の噛み合う甲高い音が響く。 「…奇襲か?」 蝶が低く呟いた。 凛音は短刀を鈍の首から離して後ろを振り返る。 蝶の刀と噛み合うのは、一見するとただの縄か何かのように見えた。 だがそこに仕込みの刃が幾つも埋め込まれているのは、少し観察すればすぐに目に付く。 蝶が刀を払うと、その縄のようなもの――それは主の手元へと返って行った。 「どうもうちの主人が襲われてたようだったんでね」 上から降りて来たのは一人の男――否、それは人の気配ではない。 「鈍の牙だよ。よろしく、美丈夫さん」 にかっと笑ったそこには、異様に尖った八重歯があった。 「さぁ面子が揃ったな。ここは一つ、鈍」 凛音は口角をぐっと上げる。 「牙を持つ者同士、それらしく力を競おうじゃないか。君が勝てばいいだけの話なんだが――」 続く言葉に鈍が身構えた。 「俺が勝ったその場合には、君には俺に同行してもらおう」 四人の視線が絡み合う。 [*前へ][次へ#] |