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短編/外伝集
失言


城下町は、五日後に黄昏の社で行われるお祭りの準備に追われていて、人通りが多かった。
気を抜いたらあっという間にはぐれてしまいそうだなぁ…。
…はぐれないように注意しながら歩こう。
「凄い人ですね。今回のお祭りは何をお祈りするお祭りでしたっけ?」
「シュビア王国及び中央大陸の繁栄を願うお祭だよ」
年に四回、季節の変わり目に社で行われるお祭り。
毎回何かしら願いを込めて、社の巫女さん達が神様にお祈りを捧げるんだ(これは何処の大陸も同じ。日にちは違うけど)。
……風の大陸は…確かこの時期は、ジイラ様が送る風に感謝するお祭りかな。
と言っても、風の大陸のお祭りは毎回似たような物だけど…。

「…そういえば、」
「聞かれる前に言っておくけど、森の大陸のお祭りのことなんて知らないからね。…第一、森の大陸のお祭りなんて僕出たこと無いし」
「あっ…ご、ごめんなさい!そんなつもりじゃ……」
僕はなんて無神経なんだ!
森の大陸での塑羅さんの立場は知っていたのに…!!
「……別に、いいよ。リトに悪気が無かったのは、わかってるから」
そう言いつつ、ほんの少しだけ俯く塑羅さん。
…完全に失言だ…。


それから塑羅さんとどんな顔をして話せばいいか解らなくなって、その後は淡々と買い物を済ませた。
買い物の合間にした会話と言ったら、『次はあっちのお店です』『そう』程度の物で(会話とも言えないかな…)。

…どうしよう…沈黙が辛い。

せっかく塑羅さんを元気にするために連れ出したのに、このままじゃ意味が無い。
何か話さなきゃ…でも、軽い気持ちで話題を出すとさっきみたいなことになるかも…。

「…あれ?」
気が付けば、塑羅さんとはぐれてしまっていた。


十五分くらい探し回ったけれど、塑羅さんは見つからなかった。
城下町の元々の広さに加えて、今日は人通りが多く、思うように進めない。
塑羅さんは小柄だし、きっと人波にさらわれちゃったんだろうな。

それからさらに十分程して、ようやく塑羅さんを見つけた。
塑羅さんは小さな喫茶店の軒下にひっそりと立っていた。
俯いていて、表情は解らない。
僕が呼ぶと、ふっと顔を上げた。

「……ごめん」
何処か悲しげな顔で言う塑羅さん。
──そんな顔しないで欲しい。
「気にしないで下さい。仕方ないですよ、今日は人も多いですし」
「………」
「……塑羅さん…?」
さっきとは様子が違う気がする。
何だろう。何かを迷っているような、躊躇っているような表情。
…どうしたんだろう…?

人々が行き交う中、僕達は暫く無言で見つめ合っていた。
塑羅さんが何を迷っているのかは解らない。…でも。



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