tvxq
LAST ANGLE(マサ→祥←梶)
こちらの森田氏サイド
失った理想 取り戻せるはず
今夜は最終Caution 後戻りはしない
仕事柄、オレがオフの日は世間的には平日が多い。
今日も例に漏れず、特に目的もなく買い物に繰り出した街は閑散として、おおよそ同世代の男などいないように思えたのだが。
「森田くん!!」
男にしてはハイキーな張りのある声が、オレの名前を呼んでいた。
見なくたってわかる。
オレが世界でいちばん、好きな声。
「祥ちゃん。珍しいね、偶然会うなんて…と、」
彼の後ろに別の人の影を感じて、視線を動かす。
「お久しぶりです、森田さん」
「梶…くん」
いつ見ても笑顔の意味が予測できないやつだ。
目の前の青年はオレに人当たりのいい笑みを浮かべながら、祥ちゃんの傍らに立った。
「ふたり、だったの?」
「ええ、まぁ」
「梶がさーぁ、もういい店知りまくってたからさ、今日いちにち財布の紐緩みっぱなし!!」
オレと梶の間に流れる妙な空気を感じているのかいないのか、梶の後ろから覗き込むように会話に入ってくる彼。
梶の手に握られている大量の紙袋を揺らしながら、満面の笑みで梶に擦りより、甘ったるい声を漏らす。
見たくない。
きみがそんなふうにしている姿なんか、見たくないんだ。
「森田くんさ、お腹減らない?」
「え、」
「メシ、食べに行こうぜ!」
「あ、えと」
返信もする暇なく腕を捕られ、そのままぐいぐいと引っ張られていく。
「自分で言い出したってことは、森久保さん。もちろんご自慢の手料理ですよね?」
「えーやだよ、もう買い物しまくって疲れた」
「疲れた…て、全部あんたの物でしょうが」
その間も二人が流す柔らかい…まるで恋人のような雰囲気に、オレは地面を睨み付けて歩いていた。
挫けそうになる勇気
でもきっとRealize
一緒なら越えて
もっと向こうへ
Baby, Come on tonight
「森田さんは、ずるいんですよ」
別段酔ったふうでもなく、タイミングを見計らったように梶が口を開いた。
彼の横には既に潰れた祥ちゃんが寝息をたてている。
「ずるい?オレが?」
「はい」
「…なんで?」
「わかってるくせに」
全く見に覚えのない、因縁をつけられたような気分で聞き返すと、歳に似つかわないセクシーな笑顔を浮かべた梶が即答する。
「いつまで、気付かないふりするんです?この人の気持ちと、あなたの気持ち」
びくり、と思わず肩が震えた。
ひとまわりも年下の人間にすら心を見透かされていたことが、素直に怖かった。
「さぞ僕はいい隠れ蓑だったでしょうね。まぁその点については僕も相応の役得は頂いたんで、とやかくは言いません。でもあなたは、」
強い視線に捉えられ、息が止まる。
何も言葉を返せないオレに、重苦しい口を開くような声音で梶が続ける。
「それがこの人をどれだけ傷つけるかも、知っていたはずでしょう?」
図星だ。
居たたまれなくて、自ら視線を外す。
ある意味特殊な嗜好に、彼が、自分が、傷つくのが怖かった。
彼の未来を奪うのが怖かった。
後ろ指を指されるのが怖かった。
だから逃げた。
それは今も、たぶん、これからも。
「…なんのことかな?梶、もしかして酔ってる?」
ああ、情けない。
声が上擦ってやがる。
「また、逃げるんですね」
そうだよ。
この青年は、どこまでオレの気持ちを予測済みなんだろう。
「だから、何の話か分かんないんだけど」
「どうして嘘ばかり吐くんですか?同性愛者と世間に見なされるのが怖い?」
「梶、何言って、」
「あの人を束縛するのが嫌なんですか?」
「なぁ、いい加減に、」
「いい加減にするのはあなたでしょう?勝手なんですよ、あなた達。自分にも、周りにも自ら隠し事をして、自分で傷ついてる」
「…だったらどうしろっつんだよ!!」
怒りに任せてテーブルを叩くと、空のグラスが振動で倒れた。
熟睡した彼は起きることはなかったけれど、ささくれ立った気持ちを落ち着かせようと、無意識に緩く跳ねた髪に手を伸ばす。
「こいつにはまだ将来があって、オレなんかが縛ってそれを奪うような真似しちゃいけないんだよ」
「この人が逸れを望んでいても?」
「祥ちゃんは難しいこと考えないで生きてるからさ、何も分かってないんだよ」
彼は何事にも縛られていない。
だからこそ深みのある演技がそこから生まれ、自由な感性は彼の大きな魅力のひとつでもある。
だから、誰も、オレも、彼を縛っちゃいけないんだ。
「森田さんのお考えは分かりました」
諦めたような、しかし妙に硬い響きを持った梶の声が、沈黙に支配されていた空気を裂く。
「僕には森久保さんは愛せませんし、それは僕の役目じゃない。でもね、森田さん」
梶の声が震えて、オレから外されない目線は先ほどとは違う色を含んでいた。
こいつがとても純粋な心を持っていることも、オレは知ってる。
やたら誰かに冷たくなるのも、誰にも依存せず、誰にも傷つけられない為の自己防衛。
嘘吐きは、お互い様だろ?
お前はそんなに、器用じゃないよ。
溢れている涙が、本当の梶の心だと思った。
「僕にとっても彼は、大切な人なんです」
「知ってるよ」
「だから、お願いします。どんな形でもいい。彼を」
幸せにしてください。
黙って頷くオレに、やっと涙を止めた梶は、からかうような笑みを浮かべた。
「僕、森田さんに謝らなきゃいけないことがあって」
「なに?」
その瞬間、嫌な笑顔の梶が、ぐっと顔を近づけてきた。
「森久保さんとのキス、お返しします」
柔らかな何かが唇に触れる。
見なくても分かるのがものすごく嫌だ。
「あーー!!」
大好きなハイトーンが耳元でシャウトする。
タイミング悪いにも程があるだろ。
「なんで梶が森田くんとキスしてんだよ!!」
「うるさいですよ森久保さん。個室ったって限度があるでしょーが」
「てめっ梶!!誰の所為だよ」
「あんたの所為ですよ」
「ちょっと森田くん!!俺こいつ嫌い!!」
「奇遇ですね。俺も聞き分けない中年は嫌いです」
「中年言うなー!!」
ああもう、ちょっと静かにしてよ。
無駄にげっそりと机に伏しつつ横目で二人を眺める。
口元に浮かべた笑みが、ばれないように。
聞こえてる?Everybody
痛みに立ち上がり
果てしなくてもOwn way
扉 開くとき
夢という名のNew day
世界は目を覚まし
訪れるはずI pray
光は甦る
┼┼┼┼┼
「LAST ANGEL」:東方神起
3rdアルバム「T」収録曲
本当は祥ちゃんが梶とちゅーした部屋と森田くんに梶がちゅーした部屋は同じっていうマメ知識入れたかったんですが(笑)長くなるのでやめました
梶は情緒不安定な子だと思うんです。
泣かせてみました(笑)
森田氏へたれてます…
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!