[携帯モード] [URL送信]

蛇足
弟君、参戦
「あらぁ、今日はよし君おサボり?」

「いや……何か事情があるみたいでしたけど」

「きっと、おサボりよー、もうよし君たら」


サボるという動詞に“お”をつける人、初めて見た。

目の前でプンプンと擬音がつきそうな怒り方をするよしえに、楓は内心そんな事を思った。


学校が終わった後、楓は一人で花屋へと向かった。

そう言えばよしお抜きでバイトに入るのは初めてかもしれない。

楓がバイトに入る時はいつもよしおも一緒だった。

「仕方ないわねぇ、今日は楓ちゃんと私の2人で頑張りましょうか」

「そうですね」


楓は初めてのよしお抜きのバイトに若干の不安を覚えると、自分を奮い立たせるようにグッと拳を握った。

いつかはバイトだってよしお抜きでやらなければならないのだ。

早く慣れないと。

「よしえさん、俺、頑張りますね」

楓が力の籠もった目でよしえを見ると、よしえは笑顔で「頼りにしてるわ」と楓の肩を叩いた。

その時だった。

「ただいま」

昨日と同じどこか皮肉を含んだような声が、楓の背後から聞こえてきた。

「あらー、よしちゃんったら珍しいのねぇ。お店の方から入ってくるなんて」

「ねぇ、今日アイツいないの?」

よしえの言葉など全くのスルーでよしきは口を開くと、スタスタと店の中へ入って来た。

何故かその目は楓を見つめており、楓がよしきと目を合わせた途端、その目には嘲るような色が浮かび上がった。


この目…

嫌だな


楓がとっさに眉をひそめると、よしきは口元にニヤリと笑みを浮かべた。

「ねぇ母さん、今日アイツ……居ないの?」

「アイツって、もぅよしちゃん?よし君の事はちゃんとお兄ちゃんって言いなさい?」

「はいはい、じゃあその俺の“お兄ちゃん”とやらは今日居ないわけ?」

「そうよ、よし君今日オサボリなのよ?困った子よねぇ」

「母さん、サボるに美化語の“お”はいらないよ」

その言葉によしえが「よしちゃんは物知りねぇ」と言うのをよしきは軽くスルーすると、脇に居る楓に顔を向けた。

「ねぇ、今日“お兄ちゃん”が来ないなら……俺が店手伝おうか?」

言いながらよしきは楓から目を離さなかった。

「……………」

楓はジッとこちらを見てくるよしきに、よしおが電話で最後に言っていた言葉を思い出していた。



“よしきとは関わるな”




「(よしお君………)」


「よしちゃん今日はお勉強はいいの?」

「うん、たまには家の手伝いも……いい息抜きになるから」




「(早くもその警告、聞けそうにないや)」



楓は面白ろそうに此方を見てくるよしきに、


小さくため息をついた。


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!