蛇足
2
どうしても、弟にだけは……よしきにだけは会わせたくない。
どんなにムカつく事を言われてもよしおは、弟……いや家族にだけは今まで一度も暴力を振るった事はなかった。
できれば……殴りたくはない
だが、自分の大切な者を馬鹿にしてきたら、いくら弟といえど容赦できそうにない。
だから今までは、よしおは家に誰も近寄らせなかった。
だが楓は違う。
ウチでバイトをしている以上、今後よしきとの接触はどう足掻いても避ける事は難しい。
せめて自分が一緒に居れば
よしおはそう考えると、再度深い溜め息をついた。
「(あぁ……馬鹿だ、俺)」
昨日の楓とよしきの接触に、よしおは絶対バイトの時は楓の側に居ようと決めた。
なのに……
その計画は頭から崩れてしまった。
よしおは乱暴にケータイをポケットへ突っ込むと、ぐるりと辺りを見渡した。
「(どこだよ……!此処は!!)」
見慣れぬ建物
見慣れぬ景色
よしおは目の前に広がる、自分の記憶のどこにもストックされていない光景に頭を抱えた。
朝、楓からあんな事を言われた後、よしおはあまりの嬉しさに教室を……いや、学校を飛び出してしまった。
冷静になって考えてみれば、一体何をやっているんだと思うだろうが、あの時のよしおは本当に何も考えていなかったのだ。
ただ、嬉しさの余りよしおは街をふらつき適当にバスに乗ってそれはもうぼんやりとバスに揺られるがまま、こんな所まで運ばれてきてしまった。
「(マジで……何やってんだよ!?俺は!?)」
よしおは頭を抱えたまま時計に目をやると、どうしたものかとため息をついた。
見慣れぬ風景
だが、地名だけなら聞いたことがある。
その為帰れないという事はまずないだろうが、今からではどう足掻いても今日のバイトの時間までには到底帰れそうにない。
「頼むから……アイツにだけは何も言わないでくれ……」
よしき
よしおは静かにそう呟くと、一刻も早く家に帰るべく見知らぬ街を闊歩した。
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