歪みの国のアリス 手をつないで あなたの温もりは大好き。 あったかくて、心地良くて、とても落ち着くの。 「だけど、あんまりくっついてるのは困るわ」 だって、ドキドキが止まらなくなるんだもの。 なーんて、恥ずかしくて言えないんだけど。 「どうして?猫の温もりは心地良い、でしょ?僕もこうしていると落ち着くしね」 チェシャ猫はゴロゴロと喉を鳴らして、私の背中に回した手に力を込めてきた。 昨夜のうちに部屋のクーラーが壊れてしまったらしく、今アリスの部屋には扇風機が一台回っているだけで、室温は外と大してかわりない。 チェシャ猫の力に暑さが加わって苦しい。 「ヤ、ダ。…チェシャ猫、苦しいわ。離し…て?」 アリスは必死に身動きするが、チェシャ猫の力には敵わない。 アリスはチェシャ猫の腕の中にスッポリと抱えられ、猫肌の温度で幾分温められたのであろう、頬は林檎の様に真っ赤になっている。 「心地良いのは嘘じゃないけど、この暑苦しい季節にあなたの肌は熱過ぎるのよ。君が望むなら、とは言ってくれないの?」 アリスの懇願する上目使いに、チェシャ猫は渋々腕の力を緩めた。 「僕のアリス。君が望むなら……しょうがないね」 アリスはチェシャ猫の腕から解放され、ベッドから身を起こして、勉強机に向かった。 チェシャ猫は寝転んだままアリスの動きを追っている。 「何をするんだい?」 チェシャ猫が問うと、アリスはノートをパラパラと捲りながら答えた。 「宿題よ」 「ガッコウはないのに、シュクダイはあるのかい?」 チェシャ猫は寝転んだままの姿勢で器用に首を傾げる。 「夏休みに入ったから学校はしばらく休みだけど、その分宿題は山の様に出されるの。後回しにすると自分が後悔するわ」 チェシャ猫はニンマリ笑ってそれきり黙ってしまった。 きっと宿題の邪魔にならない様に配慮してくれたのだろう。 アリスは集中して宿題を進めた。 「アリス?」 10分ほどして、チェシャ猫が口を開いた。 「なぁに?」 アリスは問題集に答えを書込みながら返事をした。 「そろそろ猫肌が恋しくならないかい?」 チェシャ猫にとって10分は長かったらしい。 我慢できずに話し掛けてきた。 「……」 振り向くとチェシャ猫は「おいで」と腕を広げてこちらに向いている。 こんなクソ暑いのに… 内心そうも思ったが、チェシャ猫に触れたいと思うのも嘘じゃない。 アリスは椅子から立ち上がって、ベッドに座っているチェシャ猫の元へ向かった。 「アリス…?」 アリスはチェシャ猫の右手を、そっと握った。 「このくらいが、私には調度良いの。とても落ち着くわ」 キュッと、握った手に力を込める。 「可愛いアリス…。だけど僕から手を握ろうとすれば、僕の鋭い爪がアリスの柔らかな肌を傷付けてしまいそうだよ」 「だけど、今は、大丈夫でしょ?」 アリスはチェシャ猫の右手に自らの頬を寄せた。 「私から繋ぐ分には、問題ないわ」 アリスの頬は少し熱い。 猫肌では火傷をしてしまうかもしれないね。 そう思ったチェシャ猫は良い事を思い付いた。 「じゃあ僕はこうしよう」 チェシャ猫は、繋いだ手を引き寄せて、アリスの小さな手の甲に口付けを落とした。 「あ…」 手を繋いで。 お互いに触れ合って。 それが私達の最高のスキンシップ。 [*前へ][次へ#] |