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歪みの国のアリス
桜から舞い降りた幸せ


ちらちら

チラチラ

ちらちら


「桜が咲いてるね」

散歩からの帰り道、道の両側に並んだ桜の木を見上げながらアリスが言った。


「春だからねぇ」



アリスは落ちて来る花弁を両手でそっと受ける。


「キレイだね」

僕がそう囁くと、アリスは嬉しそうに微笑んだ。

「落ちてくる桜の花弁を落とさずに取れたら、幸せになれるんだって」

「へぇ。じゃあアリスは今幸せなんだね?」

どうしてか、アリスの顔を覗き込むと彼女の笑顔が消えていた。

「そうでもないわ」


アリスは手のひらに乗った一枚の花弁を、落とさない様に慎重に指で摘んで眺める。

「辛い事だってたくさんあるもの。こんな花弁一枚で、私も幸せになれるのかしらね」

少し俯きながら、小さな声で。

「アリス…」

「…」



しばらくの沈黙の中、一枚の花弁が僕の肩に舞い降りた。
「あ…」

アリスもそれに気付いたらしい。

「僕も幸せになれるみたいだね」


ニンマリ笑って、アリスに言う。

「うん、そうね」

アリスは笑ってるんだか悲しいんだか分からない表情になった。目が潤んで。頬が、赤い。


「僕はアリスと散歩してるだけで幸せだよ」

「うん」

「僕はアリスといられるだけで幸せ」

「うん…」

アリスの声はどんどん小さくなる。

「アリスは違うのかい?」

「…違わないわ」

最後の方は聞き逃しそうな程の小声で。

「じゃあアリスは今、僕といられて幸せなんだね?」


俯いたアリスの頬は、更に赤みが増している。



「私は今、チェシャ猫のおかげで幸せを感じられてるわ」


僕を見上げる彼女の甘い顔は、本当に甘そうで美味しそうで。
僕は我慢が出来なくなってしまうよ。

そんな顔をするなら食べてしまうよと、そう告げたらアリスは「幸せだからそれもいいかもしれない」と、一層可愛いらしく笑った。




「チェシャ猫?」

「なんだいアリス」

僕はアリスの頬に口付けながら返事をする。

「ありがと」



お礼を言われたからには、きちんと最後まで食べておくべきだね。


お礼を言いたいのは僕の方だ。



ごちそうさまだよ、アリス…






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あきゅろす。
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