小話(リボーン) 鏡開き。(雲獄) 「なぁなぁ、鏡開きってどういう意味だ?」 どこでそんな単語を聞いてきたのか、勝手に人の家のコタツでくつろぐ隼人は、だらけた姿で聞いてきた。 この家に慣れ、なついてくれるのは嬉しいが、若干邪魔である。 「自分で調べなよ」 邪険に扱うと、つまらなそうな顔で携帯を開いた。 数秒して、苦々しい顔でこちらを向く。 「『かがみびらき【鏡開き】正月にかざった鏡もちを割り、ぞうに・あずき汁などにして食べること。』だって。…あずき汁…」 辞書の内容をそのまま言葉にした隼人は、あずき汁に引っ掛かったようだった。 確かに、そんな書かれ方をしたら一瞬戸惑う。 それがどんな物かあまり理解していない、帰国子女の彼ならなおのこと。 「あずき汁って、多分あずきの汁そのままの意味じゃないよ。お汁粉とか、そういうのを指すと思う」 「お汁粉?」 「あずきを砂糖で煮詰めたような、甘い食べ物」 簡単に説明すると、雲っていた表情が明るくなった。 意外と甘い物が好きな彼からは、もの凄く『食べたい』という雰囲気が伝わってくる。 元気よく振られる犬のしっぽまで見えそうだ。 本当によくなついたものだと、自分で感動してしまった。 このなつきようなら、多少イタズラしても問題はないだろう。 「でも、今僕の家には材料がないから、作れないね」 ニヤリと笑って言ってあげる。 その瞬間の、絶望した表情に内心吹き出した。 「え………ぁ」 ついうっかり漏れた自分の落胆の声に、隼人は焦って口元を覆う。 ま、遅いけど。 「…つまんねーの」 「ごめんね」 あからさまに寂しそうな背中。 元気だったしっぽは、しょんぼりと垂れている。 「お雑煮なら作れるけど、食べる?」 「…いらね」 あぁ、完全に不機嫌になった。 でも理由が理由なので、怒る事も出来ないようだ。 昔の隼人なら、やたらめったらに怒鳴っていただろう事を考えると、大きな成長である。 「そう」 簡素な返事をして、僕は部屋を出た。 台所に来て、ふふふ、と笑う。 こんなに穏やかな心持ちになるなんて、思ってもみなかった。 なついてくれた事も、僕と一緒にいて成長した事も、どちらも嬉しい。 とても。 「さて、と」 僕は冷蔵庫から、鍋を取り出した。 蓋を開け、昨日作っておいた中身を確認する。 温めれば甘い香りがたつだろう。 そうすれば、隼人のいる部屋にも香りが漂うに違いない。 「お餅も焼かなきゃね」 初めて『お汁粉』を味わう隼人は、どんな笑顔を見せてくれるだろうか。 今から楽しみで、僕はまたふふふ、と笑った。 ++++++++++++ 遅いけど、鏡開きでしたー 隼人の成長がすっごく嬉しいお母さんみたいな雲雀さんは、結局隼人の為にお汁粉を用意してました(*^^*) って事です。 お汁粉ウマー\(^-^)/ 20120113 [*前へ][次へ#] |