小話(リボーン)
これでも任務中。C
「あ」
車の後ろから近付いて来たのだろう。
ニヤニヤと笑う気持ち悪い小柄な男が、スーツケースを大事そうに抱いていた。
他の連中の動きが止まり、雲雀と瓜が俺の近くに戻ってくる。
「やった、やった…手に入れたぞ!!」
小柄な男はスーツケースを舐め回すように見つめ、それからこちらをたしなめるように見た。
若干よだれが垂れているようにしか見えない口元がはっきり見え、尚更気持ち悪い。
「よくやった、フガル」
声のする方を見れば、腹を抑えながら立ち上がるクリフがいた。
トゲの傷は軽くとも、雲雀の事だし多分肋骨の何本かは逝っていると思うので、根性だけで立ち上がったに違いない。
なるほど、クリフがリーダーか。
「何やってんの隼人!」
「わり、ちょっと眠たくてさ…。って、昨日お前があんなにヤるからだろ!」
「隼人が誘うからでしょ」
「お前ら、この状況が分かっているのか?」
“昨日の事”で論議する俺達に、仲間に支えられたクリフが偉そうに言う。
「この薬があれば、俺はボンゴレ十代目ボス、沢田綱吉すら簡単に殺せるんだ。いや、イタリア全土……世界だって俺にひれ伏すだろう!!」
クリフは大声でそう叫び、それから勝ち誇った顔でスーツケースの金具に手をかけた。
「開けるな!」
俺は身を乗り出して叫ぶ。
が、そんなの聞くわけがない。
「薬…薬!!」
クリフは勢い良く蓋を開けた。
だが、中から出てきたのは薬ではなく、
「ひっ、何だこれは!………まさか、これは薬の…」
紫色をしたガスだった。
この薬は噴霧した時の方が怖い。
それを知るクリフ達は悲鳴を上げ、一番近くにいたクリフを筆頭にバタバタと倒れていく。
俺は瞬時に瓜を避難させ、フレイムアローの拡散ボムをばら蒔く。
雲雀は十代目の特訓時に使ったらしい、巨大なロールの中に自分と俺を閉じ込めた。
「密閉出来るのは良いけど空気薄いし暗いよなコレ。スケルトンとかになんねぇの?」
「なるわけないでしょ。それにスケルトンになんてなったら、君が大変だよ」
「何が?」
「この中でシたら、ナニが丸見えじゃない」
「………俺、どこでお前の育て方間違ったんだろ。んな事するかよ。この変態オヤジ」
「その台詞はこっちだよ。君も、どうしてそんなに誰かれ構わず人を誘う変態になったの」
「別に良いじゃん。誘われる馬鹿が悪い」
「そんな口をきくならオシオキだよ」
「………やっぱり変態オヤジじゃんか」
パリッ。
話している内にガスが消えたのか、ロールの壁が開いた。
傍らには瓜も戻ってきている。
「彼ら、完全に薬のガスだと思ったみたいだね」
「思い込みで嘔吐や泡吐きまでするか?」
「するみたいだよ」
雲雀が指をさす奴は、失禁までしている。
俺は大きなため息をついて言った。
「ただの色付き催眠ガスだっての」
そんな分かりやすい所に大切な薬を入れるかよ。
俺はスーツの内ポケットに手を入れ、そこから少し厚めのステンレスの名刺入れを取り出し、蓋を開けた。
そこには、大人しく薬の入った小瓶が鎮座している。
「とりあえずこいつら縛り上げて、連れて帰るか」
「やだよ。隼人とのドライブにこんな奴ら乗せるの」
「俺だって。でもここに放置するわけにもいかねぇだろ。人を呼んで、また同じ事が起きたら目もあてらんねぇしな」
「…………」
雲雀は諦めたのか押し黙った。
代わりに一番大きな車のトランクに何人か詰め込む。
流石に嘔吐・泡吐き・失禁をした人間は車内に入れたくなかったのだろう。
同感だ。
「ねぇ、これ入らないよ。腕とか足折って良い?」
「あんまヘタな事するな。クリフは必ず連れて行って、他のは余ったら別の車にでも乗せといて誰かに頼めば良いだろ」
「誰かが起きて運転しようとしたら?」
「んー………じゃあ動いたら爆発する爆弾でも仕掛けとく?」
「…君、たまに恐い事言うよね」
「ま、武器が武器だから」
にこにこしながら言う内容に、雲雀がげんなりした顔を見せる。
それは軽くスルーして、俺は瓜と共に余ったやつらを一つの車に放り込んで、ダイナマイトを仕掛けた。
丁寧に手足を縛った敵の目の前に設置する。
『車を動かしたり、ドアを開けたら爆発します。獄寺隼人』なんてメモも残したりして。
「悪趣味」
「いーじゃんか。はったりだしな」
笑いながら車のドアを閉める。
雲雀のため息を見つつ、俺は瓜を小さい姿に戻して、そのまま帰る用の車に乗り込んだ。
もちろん、問答無用で助手席に。
雲雀は無言で運転席に座り、車を発進させる。
「とりあえず、町まで行こうか」
「そうだな。今日はもう遅いし、支部に泊まらせてもらうか」
「いや、宿に止まろう」
「なんで」
「…さっきの約束を果たすために決まってるでしょ」
「いや服ねぇし。つーか俺無事じゃなかったじゃんかよ。あの約束は無しな」
「!?」
「にょお!」
「んー?倒した数も瓜のが多いって?」
「にょ!」
「ちょっ、」
「だよなー、だって最初の車がイカレる前にも瓜は戦ってくれてたしな」
「そ、そこはノーカウントで」
「じゃあ休みも貰えるだろうし、本部に帰ったら瓜と寝るかー」
「にょおん!」
「隼人そんな………痛ッ」
泣きそうな顔でこっちを見ながら俺の腕を掴もうとした雲雀の手に、瓜の強烈な尻尾アタックが命中した。
その痛みに、雲雀のハンドル操作が乱れる。
「わ、馬鹿雲雀前見ろ真面目にハンドル握れ!また事故って車死んだらもう一生シねぇぞ!」
「ううぅ…」
ぎゃあぎゃあと罵声が飛び、猫が元気に鳴き、それに対してすすり泣く声が響く車内。
催眠ガスの効果が切れたクリフは、その光景を暴れもせず聞いていた。
美人で優秀な右腕、獄寺隼人が意外とはっちゃけた性格だったり。
鬼の財団長で守護者最強と唄われる雲雀恭弥が、実は獄寺の尻に敷かれた変態だったり。
色々と知りたくもない情報を知り、かつそんな人達に負けた彼の目は、諦めたように寂しげに、ただただ遠くを見ていた。
++++++++++++
獄は自分の色気も武器に使う強い子に、雲雀さんはそんな獄に毎度ヒヤヒヤドキドキさせられる子になってたら…楽しいなぁと。
二人揃ったら十代目も敵わない最強ペア。
クリフ哀れ。
マフィアの抗戦とか、やりとりは深く追及しないでください(^-^;)
結構前に書いてたんですが、ヒッチハイク含め気になって放置してました←
20110917
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