小話(リボーン) これでも任務中。A 「おーい」 上空に何も居ない事を確認して、車に向けて親指を立てる。 見事、車は俺の目の前で止まった。 この車の位置からは、穴だらけのボンネットは見えない。 「ちょっと車がイカレちまったんだけど…乗せてくれないか?」 運転席の窓をコンコン、と叩き、開いたそこを確認しながら声をかける。 火薬の匂いはしない。 隠れた人の気配もないし、実際見た感じいない。 背後の雲雀がトンファーを握っているのに気付き、片手で制止する。 そして、そのままその手で髪の毛を掻き上げる。 「次の町までで良いんだ」 運転手の男は俺を舐めるように見たあと、すんなりと了解した。 それに礼をしながら、雲雀を呼ぶ。 男があからさまに嫌な顔をしたのが分かったが、それよりも雲雀の方が恐ろしい表情をしていたため、断られなかった。 助手席に俺、後部座席にはスーツケースを持った雲雀が座る。 男は何度か俺に話しかけようとしては、後ろの異常な殺気に怯えていた。 「…仕事中だったのか?」 こんな状態で事故でも起こされたらたまらない。 適当に声をかける。 「いや、今から帰るところだ」 「へぇ、早いんだな」 「夜勤だったんでな」 本当に他愛もない話。 背後の雲雀に目を配りながら、適当に話す。 あぁ、やっと看板が見えてきた。 「ここで良いか?」 「あぁ。ありがとう」 町の入口を少し行ったところで車は停車。 男の言葉ににっこり笑って車を降りる。 男はほんのり顔を赤くしながら、殺気から逃げるように去って行った。 実に面白い。 「ねぇ、あんな何処の人間か分からないヤツに同席して、一体どういうつもり」 車を見送る背後から、恨みのこもった声がする。 「同席って…ヒッチハイクはそんなもんだろ」 「捕まえるのは色仕掛けだし、当たり前のように助手席に座るし」 「しょうがねぇだろ。スーツの男二人を、はい分かりました良いですよって乗せてくれる男はいねぇよ」 「じゃあ女性が来るまで待てば良かったじゃない」 「待てねぇし、女の方がこえぇだろ。下手にこっちが捕まってみろ。仕事に支障を来す」 「…でも」 「なんだよ」 口ごもる雲雀をちらりと見る。 雲雀は拗ねた子供のように視線をそらしながら 「そんなとっておきの姿で誘わなくったって良いじゃない」 と呟いた。 肌を見せるようにして、潤った唇から吐息を滲ませるような誘い方。 眼鏡の効果がどうだったか俺には分からないが、とりあえず雲雀は確実に釣れるらしい。 「あの男、君に惚れてたみたいだし」 うつ向く雲雀は更にごにょごにょと続ける。 「そういうやり方だったんだから、仕方ないだろ」 民間人に対しては、特に色仕掛けの方が良い。 例えこちらが指名手配されていても、惚れた相手をマフィアに売るか悩むからだ。 男であるにも関わらずこの手を使えるなら、リスク軽減の為に使う他ないだろ。 そんな事は雲雀だって分かっている。 だから雲雀にはそう言いはするものの、やっぱり可哀想だったかと頭を撫で、ついでに路地裏に引っ張り込んで言ってやった。 「それに、あんな男に興味ねぇし。興味があるのは」 オマエダケ。 おまけに唇を舐めてやる。 「お前が一緒にいたしな。守って、くれるだろ?」 「………もちろん」 眉間に皺を作る雲雀は、それでも多少マシな表情になってくれた。 こんだけ可愛いヤツ、手放すわけがない。 「さ、行くぞ」 「…しょうがないね」 雲雀の返事に苦笑して、衣服を正す。 支部の人間が来るのは、俺達が行く予定だった進行方向の町からだ。 だからそちら側の道路近くに行けば会えるだろう。 それに、追っ手が来た時町中で戦いたくはない。 町の中を多少散策しつつ、俺達は道路を目指して歩いて行った。 すると、ちょうど良いタイミングで向こう側から教えてもらったナンバーの車が来る。 そして目の前で止まった。 「獄寺さん、雲雀さん、お待たせしました」 「いや、大丈夫だ。急に悪いな」 開いた窓から顔を覗かせた男は、確かクリフという男だ。 以前仕事で会った時見た彼は、的確に部下を動かす有能な人間だった。 自身も相当なやり手だと聞いている。 そして、 「気にしないでください。むしろ、ボンゴレ十代目の守護者であるお二方にお会い出来て光栄です!」 こういう、山本に似た明るく楽しい性格だとも。 そんなヤツだからこそ、この薬と俺達を任されたのだろう。 クリフの言葉に笑いながら、雲雀と共に後部座席に乗り込む。 スーツケースを膝の上に置き、ふぅと息を吐いたところで車が発車した。 外の光景が町並みから通り過ぎる木々に変わる。 車も通らない、静かな一本道だ。 さて、あとは次の町までこれを運んで、専用のジェット機で本部まで戻り、これを十代目に渡せば良い。 そう思い、いけないと思いながらも一瞬気が弛んだのは認める。 その時はたと閉じていた雲雀の目が、すっ、と開いたのにも気付いていた。 道路の真ん中で、車が無意味に止まった。 [*前へ][次へ#] |