小話(リボーン)
君の為なら@(獄誕/獄愛され)
「くそ…」
敵は一点集中攻撃型。
罠を仕掛けてこちらの戦闘力を分散させ、手薄になった本部を狙い撃ち。
そんな罠に嵌まった自分に、ムカつく事山の如し。
俺はちらりと時計を見た。
「あーあ、9月9日か」
俺の誕生日、来ちまったなぁ。
なんて、特に気無しに思ってみたりする。
別に今更誕生日がどうこう言う気は無い。
もとより、昔からそんなに気にはしていなかった。
ただ、十代目のあの『獄寺君の誕生日、何かやれたら良いね』という言葉だけが心残りだと、そう思っただけだ。
「仕方ねぇ、行くか」
近場の手駒を集められるだけ集めて、遠方にちりばめていた奴らが帰ってくるまで耐えなくては。
計画の練り直しからなにから、やる事は大量にある。
いくら敵の撃退直後で疲れたからといって、そうそう休んではいられない。
弾丸をかすった足から血が出るが、無理矢理立ち上がる。
『獄寺隼人、見つけたぞ』
と、突然の声。
あからさまな敵の声に、くそったれと思いながらも、痛みに耐えながら敵へフレイムアローを向けた。
が、その瞬間、目の前にいた敵は爆風と共に吹き飛んだ。
「ゔお゙お゙ぉぉぉい!!」
「なっ!?」
俺が撃ったわけではない。
何が起きたかと状況を確認する俺の耳に、聞き慣れたあの叫び声が響いた。
「す、スクアーロ!?」
「アラ、私もいるわよ?」
「ルッスーリア!!」
爆風の中から、思った通りの姿が現れた。
後ろからも声がして振り返ると、知らぬ間に足を治療するルッスーリアの姿。
「ししし、王子のもんに手を出すなんて、お前らバカだな」
「ベルせんぱーい、別に隼人先輩はベル先輩のものじゃないですー。自意識過剰もいい加減にしてくださーい」
「うっせ」
「ゲロッ」
「お前ら、静かにしろ」
「レヴィ先輩は消えてくださいー」
「………!?」
それどころか、スクアーロの後ろからはベル、フラン、レヴィの姿まで出てくる始末。
俺はヴァリアーの予定を思い出す。
確か、ヴァリアーは以前から別件のマフィアと対立していて、どう頑張ってもこちらに来るのに2週間はかかったはずだ。
「はい、治療終わりよ!フルパワーじゃないから、毛も伸びないわよ〜安心して〜」
「え、あ、サンキュ…」
傷口が消えたそこを見ながら、とにかくお礼を言う。
だが、疑問は消えてない。
「お、お前らまだこっちに来れねぇって…」
怪訝そうに聞けば、スクアーロ達はにやりと笑った。
「お前が苦戦してると聞いてなぁ、来てやったんだ!!感謝しろおおぉ!!」
「しし、王子が本気出せばあんな奴ら瞬殺だっての」
「そのわりに、ベル先輩結構怪我してましたよねー」
誇らしげなスクアーロと、呑気に言い合うベルとフラン。
その姿に、改めてヴァリアーの力を思い知らされる。
だが、ふと気付いた。
そういえば、
「ザンザスは…?」
このヴァリアーのボス、ザンザス。
十代目と色々あったから、こちらに来ていないのかもしれない。
そうも思ったが、意外な返事が返ってきた。
「ボスはいまー、沢田綱吉の所に向かってますよー」
「敵の大将を連れていくそうだ」
「は、十代目の所!?」
しかも敵のボスを連れて?
真顔で言うレヴィは、どうやら嘘なんてついてない。
敵のボスなんて、そうそう捕まるはずがない。
というか、普通捕まらないし、見付からない。
「とにかくだ!!ここはオレ達に任せて、テメェは沢田綱吉の所に行きやがれ!!」
「他の所の敵も、ちゃあんと私達が相手してあげるから大丈夫よ〜」
「ししし、オレ達がこんだけしてやるんだから、後で褒美寄越せよな」
「先輩、それじゃ意味ないじゃないですかー」
「え、あ、」
「うだうだしてねぇで、行けぇ!!」
「お、おぅ…ありがとな」
ヴァリアーの雰囲気に飲まれながら、スクアーロに怒鳴られて本部へと向かう。
「あ、私のは孔雀の羽よ」
「テメッ!!王子のは王冠だから、最初に見つけろよ」
「オレのはカミナ」
「その言い方はズルいですよー。ミーのはこのカエルですー早く捕まえないと逃げちゃいますから、真っ先に見つけてくださいー」
「ゔお゙ぉぉい舐めてんのかテメーらぁぁ!!オレの鮫が先だああぁ!!」
「く、貴様ら!!オレに喋らせろ!!」
「………?」
後ろから何やら様々な声が聞こえてくるが、俺はとにかく本部に向かって走っていった。
「じ、十代目!!」
本部の奥の奥、十代目がいるはずの部屋に向かう。
扉を開けて最初に見えたのは、敵対マフィアのボスの顔だった。
「なっ!?」
「あ、獄寺君」
「おせぇぞ…」
「ザンザス!!」
次いで十代目のにこやかな笑顔と、いつもの不機嫌そうなザンザスの顔が視界に映った。
『お前…獄寺隼人か!!』
「!?」
足元のボスが、俺を認識して目を見開く。
そしてニヤリと笑って、隠し持っていたナイフをこちらに向けた。
突然の事で対処出来ない俺に、ボスは踏み込む形でナイフを突きだし…
「カスが」
ザンザスの言葉と共に飛んできた、目の前をかする弾丸に悲鳴を上げ、そのまま俺の脇に倒れた。
「次にソイツに手を出したら…どうなるか分かってるな」
『ひ、いいぃぃぃいぃ!!』
銃を向けて近付くザンザスに、腰を抜かしたボスは悲鳴を上げるだけだ。
「おい、獄寺隼人…大丈夫か」
「あ、あぁ…ありがとう」
「気を抜くんじゃねぇ、カスが。さっさと行け」
「おぅ…」
鬼の形相のザンザスに促され、十代目の元へ向かう。
十代目は崩れぬ笑顔で俺を見た。
「ごめんね、丁度あの人を投げた時に獄寺君が来たから…」
「大丈夫です。俺も気を弛めてしま」
「あの人はもう一度、躾し直さなきゃね」
「へ?」
十代目はやはり笑顔。
だが、俺を見る目とボスを見る目があからさまに違う事に、途中で気が付いた。
十代目は今までにない、氷のような視線でボスに向かう。
そして、銃を向けられ続けて竦み上がっているボスの前にしゃがみ、言った。
「貴方がただ一言、負けました、と敗北宣言してくれれば、この戦いは早期終了、貴方もまだマシな人生を歩めますよ」
『いっ、』
「ですが…これ以上獄寺君を傷付けようとしたり、抵抗したら…」
『あ、』
「ただでさえ、さっき獄寺君にナイフを向けたというのに、こうやって優しく話してあげてるんです。自分がすべき事、分かりますよね?」
『あ゙、ぐ、………』
遠くにいる十代目の声は、あまり聞こえない。
が、ボスの顔がどんどん真っ青になっていくのはよく分かる。
数分後、十代目は爽やかな笑顔でこちらに戻ってきた。
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