季節シリーズ
28.
「そういうことは何も。でも期間と曜日は聞いてるよ」
「え?それだけ?」
僕の言葉に石川君は驚いたように食べる手を止める。
「うん」
「そう・・・・」
「どうかした?」
「ううん。あっ、ねぇ、この卵焼き、一切れちょうだい。俺、染矢君の卵焼き、好きなんだ」
「こんなのでいいならどうぞ」
彼が不自然に話題を逸らしたような気がしたけどその事を突っ込むような雰囲気ではなくなった石川君の顔を見つめながら僕はお弁当箱を差し出した。
そんな日々を過ごしていた頃、大輝から話があった。
「真妃、バイト先が増えた」
「え?」
ツキンと胸が痛み、心の中の重りが増えたような気がする。
「親父の部下の子供が“自分も教えて欲しい”って言ってきたんだ。今、教えてる奴の友達だったらしくて。俺の就活が始まるまででいいって言うし
いい機会だから親父に貸しをつくってやろうと思ってOKした」
「そう・・・・判った。曜日は?」
「火曜と金曜。この日は時間が遅くなるから食事はいい」
「遅くなるの?」
「あぁ。今度は19時から22時までなんだ」
「そうかぁ。っていうかそれが何で修さんに貸しをつくることになるの?」
「何かあった時に“あの時、親父の顔をたててカテキョをやってやった”って言えるだろ」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら僕に伸ばしてくる彼の手をとると胸に引き寄せられる。
「真妃との時間を邪魔するんだから大きな貸しだろ?」
久しぶりに彼の体温を感じ、心の中の重りが少し軽くなったように感じた。
「僕との時間?」
「そうだ。最近、なかなかお前との時間が取れなくて悪いと思ってる」
「あっ・・・・」
大輝は気づいてくれていた。そう思っただけでまた重りが軽くなったような気がした。
「大丈夫だよ。大輝がそう思ってくれているっていうだけで僕はいいんだ」
「できるだけ早く帰るようにする」
「いいよ、無理はさせたくない。たまにでいいからこうやって抱きしめてくれたらそれでいい」
「真妃・・・・」
申し訳なさを表情に滲ませる彼に僕は自分からキスをし、その胸に縋りついた。
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