季節シリーズ
29.
それから間もなくやはり大輝は忙しくなり、いつの間にか同じベッドで眠ることが無くなった。
以前は毎日といっていいほどの頻度で大輝のベッドで眠っていたが、身体を繋げた夜であっても彼が眠っている間に自分のベッドに戻るようにした。
初めの頃は文句を言っていた彼だが「大輝をゆっくりと休ませたいんだ」と僕が思っている事を伝えると不満そうにしながらも何も言わなくなった。
そして僕は彼がどんなに遅くなっても待っていて、必ず「おやすみ」を言うようにした。
そうしないと大輝との会話が無い日も出てくるようになったから。
そんな時だった。あいつが僕の前に現れたのは。
石川君と一緒に大学を出たところで前を塞ぐようにしてきた男の顔を見て一瞬、身体が固まった。
その男は中学の時に僕を置き去りにして逃げた彼だった。
「相変わらず、女みたいな顔をしてるんだな。そっちは彼氏か?」
そいつのその言葉に石川君は怪訝な顔をして僕をみる。そんな彼を促し歩きだそうとするとそいつは僕の腕を掴んできた。
「待てよ。あれからお前と連絡がつかなくなったから・・・」
「話なんかないよ。離してくれ」
平静を装って出来るだけ冷たく聞こえるように言うと、そいつは“フン”と鼻を鳴らして掴んでいた手を離した。
「染矢君?」
「いいから行こう」
もう1度、彼を促して歩き出そうとした背にあいつがまた、声をかけてくる。
「まぁ、いい。今日はお前が本当にここに通っているか、確認にきただけだからな。そいつに満足できなくなったら俺がいつでも相手にしてやるぜ。
あの時のようにな」
そいつのその言葉に身体がビクッと震える。
「また来るからな」
そう言って僕達を追い抜かし様、肩に手をおかれ、咄嗟に振り払うとニヤリと嫌な笑いを残して去っていった。
「染矢君?大丈夫?真っ青だよ」
石川君のその声にハッと意識を戻し、無理やり笑顔を浮かべて「大丈夫」と言っても肩におかれたあいつの嫌な手の感触が残り、僕は気分が悪くなった。
それからあいつは頻繁に僕の前に現れるようになった。
なんだかんだと話しかけてくるのを無視して通り過ぎる。が、ずっと後をつけてきたり、マンションの前で待ち伏せされたりストーカーまがいの事をされた。
「それはストーカーだろ」
石川君に話を聞いた蒼介さんに呼び出され、しぶしぶ経緯を話すと呆れたように言われてしまう。
「桐原には言ったのか?」
「ううん。大輝は忙しいし別に取りたてて被害があった訳じゃないから」
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