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番外・過去拍手ほか書庫
甘えた彼を見たいんです(京×千草)
クールでミステリアス。
動かない表情からは感情が窺えない。どころか、いっそ冷酷とも言える空気を放つ。
一人で居る事にさして抵抗が無かったから、彼は近寄り難いまま、本来ならば孤高の存在であり続けただろう。

彼が嫌われず、むしろ高嶺の花としての好意を持たれるに至ったのは、何もその容姿が整っていた事だけが理由ではない。
冷たく近寄り難い顔と同時に存在した、儚げな、そしてまた無防備な側面が惹いた。
そんな、孤高である筈の彼、新海千草を長々独占し続けたのがルームメイトの京由嘉である。
そして恋人になった今も尚独占し続けていると言える。

明るく、気取らず、人に好かれる京だったから許された立ち位置。
優しく、嘘をつかない京だったから千草の表情を動かせた。
京だから恋人になれ、京だから幸せに出来る。

二人に近ければ近い程、深く理解している事実。
そして近いからこそ生まれる思いもある。
千草が京だけに許す顔を近くで目撃する事になる者達は、彼らが本当に二人きりになった時のそれも気になる。
人目があると抵抗する千草が、二人きりで素直になればどんな顔をするのか。

そして今、そんな欲求が吐き出されていた。


あまり表情を動かす事なく里久と会話するその横顔を、廊下から見たのは京だった。

「やっぱりさ、甘えたりするんだよな!?」

京は興奮のあまり声が大きくなってきている友人達を呆れ顔で見返したが、彼らは何ら気にしていないらしい。

「甘えた声が想像出来ないー!」

元より千草が好きで、黒川に無理を言って紹介してもらった市川と新島の二名。
そして同じクラスなのにも関わらず、恐れ多いといった具合に中々ファンから抜け出せない者達もだ。

「可愛いのか!?新海が可愛くなるっていうのか!?」

友人と言える程近いというのに、自らその位置を逃している感は否めない。
盛大な溜息を吐き出し、期待に満ちた面々を見やる。

「お前ら……」

呆れて言葉も無い。
額を押さえた京は若干の苛立ちを覚えたが、この図々しい奴らをどう黙らせようかと思案した。

気の許せる友人が増えれば、千草の表情も今よりもっと豊かになるかもしれない。
今よりずっと、普段から笑顔が見られるようになるかもしれない。

そう思った京の気持ちなど露知らず。
そりゃあ一度も口にはしていないから知らないのは当然なのだが、まさか友人である事よりファンである事を選ぶとは想定外だったのだ。

「……わかった」

聞いて、彼らの顔はパアッと明るく輝いた。

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あきゅろす。
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