番外・過去拍手ほか書庫
2
放課後、人が居なくなるのを待って千草が連れてかれたのは中庭のベンチだった。
京は深刻にならぬよう然り気無く言ったのだろうが、話があるからと言われてしまうと深刻に考えずにいられない。
ここで待ってろと言われて待つ間にも着々と緊張感は高まっていく。
「千草」
不安が顔に出たらしい。
京は苦笑すると、手の甲から包む様にぎゅっと握った。
話って何なんだ?と、さっさと聞いて済ましてしまいたい。
けれど口が動かなかった。
「言っておきたい事がある」
やはり深刻なトーン。
心臓がぎゅうっと押し潰される様な苦しさが襲う。
「少し自覚が足りないんじゃないか?」
厳しい口調にハッとして見上げると、その目も同様に真っ直ぐ注がれていた。
「もっと周りの目を気にしなさい。無自覚だから襲われ易いんだ」
「……あの」
反論は出来ない。
その通りだった。
「でも……」
こんなに強く言うなんて。
京が本当に怒っているんだとわかると心から反省するし、でも同時に悲しくなった。
怒らないで、とは言える筈無い。
恐くなって目が泳ぐ。
熱が逃げていく指先を自然と胸の前で擦り合わせる。
「ごめん……なさい」
怒らないでほしい。
怒らないでほしい。
「気をつけるからっ」
声が震えないようにぐっと我慢する。
泣いたら話にならない。
けれども京の制服に手を伸ばし、媚びる様に摘んでしまうのは狡いと思う。
恐る恐る、上目遣いになるのはわざとではない。
「京……?」
ちゃんと気をつけるから。
だからもう許してほしい。
しかし、京はうんとは言わない。
視界が熱く滲み、焦ってうつむいた。
泣き落としなんて思われたくないのに、堪えようとすればする程収拾がつかなくなる。
「何をどう気を付ける?」
「それは……」
何を自覚すればいいのか。
どう気を付けたらいいのか。
言葉に詰まると、短い溜息が漏れた。
制服からそっと手を外されて、やんわり拒絶されたのだと悟ると、新たに大きな恐怖が襲った。
冷えていく指で掴み直してもう一度謝っても、目をそらした京は許してくれる気配など感じられない。
「……っ、どうしたら…いい?だって、わからない…っ。俺は何もしてないのにっ」
俺は何も悪くない。
別に普通にしているだけで、なのに勝手に……。
それが自覚が無いっていう事であっても、もっと警戒すべきだと言われても。
そもそも悪い事を仕掛けるのはいつも相手だ。
開き直っただけの言い分が我ながら腹が立つ。
こんな事しか言えないのか。
呆れられても、仕方ない。
また手が放されそうになって、咄嗟に体が動いていた。
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