番外・過去拍手ほか書庫
2
教室の窓から吹き込む風が髪を揺らし、青く澄んだ空を頬杖でぼんやりと眺める。
幸せを何度でも実感する。
視界に入り込んできた顔は心配そうに眉根を寄せていた。
「ん?」
二人きりでもないのに人前で気を抜いて、こうぼーっとしているのが何かあったのかと気になったのだろう。
それが可愛くて、思わず笑みが浮かんでしまう。
千草だけに見せる顔を人に見られるのは抵抗が無いとは言えないが、そのつもりが無くとも千草がそうさせてしまうのだから仕方がない。
誠は失礼な事にうわぁ、と呻いて顔を反らし、里久は若干恥ずかしそうに顔を背ける。
照れて視線を泳がせる千草の髪を撫でると、照れつつも嬉しそうに笑む。
何て愛しい生き物か。
もういっそここで構わずに口づけてしまいたい気に駆られるが、散々罵られる事も予想されるし、さすがに自制する。
「千草はそうやって笑ってる方がいいね」
最愛の人が向けてくれる笑顔。
それがこの上ない幸せ。
またこうして笑ってくれる日が来た事が、大袈裟な様だけれど奇跡的な事だと思える。
「どうかした?」
「いや、千草には随分怒られてたなぁって思って」
せっかく心配して聞いてきたのに少しにやついて答えると、千草はキョトンとした。
きっとまたふざけてると思うだろうという予想は裏切られ、俺がぼーっと何を考えていたのかを悟ったようだ。
「よかったな」
「ああ。よかった」
怒られなくなって、じゃない。
二人の関係がこうなれて――。
白い指先に触れ、感じる体温。
その何もかもが愛しい。
「でも千草を怒らせる事が出来るのも俺ぐらいだよな!?」
人前で晒している恥ずかしい空気をごまかすべくふざけてみる。
しかしこれは事実だ。
寄るな触るなと遠慮無しに声を荒らげさせるのは俺ぐらいじゃないかと思う。
「もう!昔は本っ当ちっちゃくて可愛かったのにー。ほぉら、笑ってみ」
案の定、ひくりとひきつる表情。
「由嘉君大好き!って言ってたのにー。ほらほら!にっこり笑って言ってみて!」
「誰が言うかそんな…っ!そんなの!俺は言った覚えも無いしこれからも言うつもりはない!」
「えー!!」
「えー、じゃない!」
大体そんな昔の事を持ち出されても、と説教モードな話の腰を折る。
「今も負けてない!むしろ進化してるよ!可愛い!よっ!可愛い!」
やり取りが聞こえている教室内で小さく笑いが起こる。
それが更に千草の羞恥心を煽り頬を染めさせる。
「うっさい!喋るな!お前なんて…っ……お前なんてぇ……意地悪なんだ!」
恐らく大嫌いだ、とでも言いたかったのだろう。
けれど気を使ったのか単に言えなかったのかは知らないが、迷った上でのその言葉のチョイスがおかしい。
「ふ…っ、はっはっはっはっはっはっ!」
我慢出来ずにケラケラ笑って余計に逆撫でするのはわかっている。
千草はすっかりむくれて拗ねてしまった。
「悪かった悪かった!」
教室を巻き込んで起こる笑い声の中、拗ねるその腕を引き寄せ耳元で囁く。
最愛の人へ紡ぐ言葉。
「千草。愛してる」
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