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番外・過去拍手ほか書庫
二人の記憶(京×千草)
放課後に訪れた図書館にはいつも中学生を含め多くの生徒が居る。
普段なら気にならない靴音も気になってしまう様な静かな空間。
借りていた本を返し、次に借りる本を物色して本棚の間をうろうろする。
選んだ一冊を手に視線を動かす先に、京と同じ名字を見付けてふっと笑みが溢れ、思わず手に取ってしまった。
見ると読み方が「みやこ」で、惜しい!と思っている自分が可笑しくなる。

先程からちらちらと視界に入っていた人影のいくつか。
何気無くそちらに注意が反れ、それが中学生だと知ると同時にいつかの自分が重なる。
視線がぶつかると赤面して反らされる顔は、頭一つ分以上も下にある。

「どの本?」

その子が届かなかった棚へ手を伸ばすと、戸惑いながらも遠慮がちに指を指す。
それを取って渡すと、お礼を言われてすぐ背後から静かに声が響く。

「千草は中学生にもモテるね」

振り向く間もなく抱き締められて拘束される。

「な…っ、びっくりした…!」

ふっと小さく吹き出しながら、腕をゆるめず首筋に顔が寄る。
くすぐったくて身をよじっても拘束されていては逃れられない。

「放せよ」
「何で?」
「歩きづらいし、邪魔っ」
「ちきしょう!じゃ放さなーい」

場所が場所なだけに怒って抵抗するのも躊躇われる。
揉み合っている間にも中学生は赤い顔で立ち尽くしている。
腕に抱き込まれたまま半ば強制的に歩かされ、どんな本を選んだのか等他愛ない話をしているとそれもどうでもよくなってくる。
しかし何気無く視界に入った幾つもの視線を意識してしまうと、直ぐ様解放してほしくなる。
本から顔を上げて見られているのをわかっていて、故意に首筋に口づけてみせるのが憎たらしい。

「なぁんだよ、馬鹿!もう放せって」

遊ぶなと訴えても一向に聞いてくれず、本を借りている間もしっかり見られる羽目になった。
図書館を出てすぐに振り払うと急に黙り込んだから、悪い事をした気になって不安になる。
苦笑して伸ばされた手は温かい。
うつむいて、そろりと目線を上げて窺う。
そのまま手を引かれて歩く内この気まずい空気が悲しくなって、ここが誰に見られているかわからない外だとわかっていても甘えて腕にぴたりと擦り寄った。
けれど恐くて顔は見られない。

いつの間にか連れられた噴水のベンチに座ると、横からふわりと抱き寄せられた。
咄嗟に体が強張ってしまい、怒らないでと願いながらすがる様に制服を掴む。

「千草は俺だけのものだ」

ハッとして耳を傾ける。

「かっこいいし、綺麗だし、可愛いし。千草は目を引くから、俺だけのものなんだって自慢したかったんだ」

おずおず顔を上げると、肩に回された手が後頭部を撫でる。

「ごめんなさい」

制服を掴む手に力が入る。
恥ずかしいからといって頭から抵抗せずに、もっとちゃんと考えればよかった。
せめてどうしたのかくらい聞いてもよかった。

「気付かなくて」
「いいんだよ」

自分だけのものって思って、示してくれる。
京の愛情表現は時に恥ずかしいけれど、だけど。

「嬉しい」

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あきゅろす。
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