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番外・過去拍手ほか書庫
最愛の再会(京×千草)
初等部の食堂で何年か振りに見たその人は初めから目立っていた。

それは五年に進級するという時期で、同じ学年に編入生が来るという話は既に知れていたから、珍しがって人が群がっていた。
まともに顔を見たのは後になってからで、いくら仲良くしようと話し掛けても喋らないし笑いもしないという話だけは友人達から聞いていた。

学園に来て数日。
あっという間に近寄りがたいオーラでその地位を確立し始めていたその人。

カッコイイ奴が現れてお前の座が危うい、などと言われて敵視した事はまったくない。
容姿を褒められて特別嬉しく思う方ではないし、誰かに恋愛感情で好きだとか言われても特に何とも思わなかった。
嫌われるよりはまあ好かれている方がいいか、ぐらいに思っていただけで、嫉妬する理由もなかった。

少しくらい愛想よくしていれば一人になる事も無いだろうに。
相手にしてくれない、と拗ねる友人達の話を聞きながらそんな事を思った。
けれど、一人で居るその姿を食堂で見かけた時、走る衝撃に息が詰まった。

色の白い肌に艶のある髪。
あれから失われたままの表情。

好き好んで独りになっていると言えばそうなのだろうが、無理もないと思った。
一度、すっかり心が壊れてしまったのだ。
記憶はバラバラに砕け散り、その多くが曖昧に浮き沈みする。
不安定な心が無意識に人を拒んでいるのかもしれない。

トレイを見下ろす黒い瞳が動き、視線がぶつかる。
立ち尽くし凝視する俺に怪訝な顔をするでもなく、黙って見上げる虚ろな瞳。
皿の中で野菜炒めのピーマンだけ避けられているのが可笑しい。
昔と変わらないそれに笑いそうになるのに、酷く泣きそうにもなった。


「一緒に食おうぜ」
「は!?京!?」

驚く友人達にも構わず、しつこく付きまとった。

「新海!」

千草。

本当はずっとそう呼んでいた事も、花を摘んであげた事も。
食べきれない弁当を食べてあげていた事も、千草の笑顔が大好きだった事も。
ずっとそばで千草を守ると約束した事も、みんなみんな忘れてしまった。

「うるさい!寄るな!」
「千草って呼んでいい?っていうか呼ぶから!」
「やめろ!くっつくな!」

それでも黙ったまま、ただそばで千草を守っていければよかった。
それが約束だった。

「千草の笑顔が好きなのにー!」
「うっさい黙れ!」

このまま思い出さなくても、黙って居ればそれで守る事が出来る。

「なぁ、知ってる?俺達、付き合ってるって言われてんの」
「うっさい。重いからくっつくなって言ってるだろうが」
「あ!サラッと流すなよ!」

新たに重ねてく日々が幸せで、そんな想いすら伝える事も出来なかった。
千草から俺が消えて十二年。
千草が過去を話してくれて、黙っていた事を打ち明けて、やっと本当の再会を果たせたのだと思う。

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