[携帯モード] [URL送信]
・13/06/23 自警団詰め所 encounter:ギガトール/ラクリモーサ
ハンカチは、返せるようだ。


私の処遇は決定した。そして、頷いた。今度、この左腕にその印を刻まれる事だろう。呪いとして、魔術が絡み、恐らく死ぬまで永遠のものとして。
誰かを利用する卑怯な思いは、この場で思い立つ事がよくあった。ギル君を利用しようとして結婚式に出ようとした事だって間違いじゃない、私の有用性を売ろうとした事も。それは私のエゴであって、償いでも何でもない。その行為は、今の私に背いた僅かな罪悪感として残る行いだ。

以降、"罪"と私が認める行いを成した瞬間。左腕に絡み付いた"荊の臓脈"の呪いが、私の心臓を穿ち、切り刻み、破壊する。

絶対的な死を齎すだろう。

最高の聖人を生み出す呪いだ。一切の悪事を、死を人質に取られて行えなくさせるもの。踏み外したら、即、処刑が下される。猛虎隊の、悪即斬の意思、そのもの。悪に染まった刹那、私という存在は、この世から消え失せる。生きろと言ったセシリアに背き、生かしてくれた神父さまに背き、生きる手伝いをしてくれたみんなを、裏切る事となる。私の死の元に。

私は、自警団の武器だ。絶対的な、道具。皮肉だろう、ゼルサリスを追い詰める為に友達すら釣り針として、道具として扱ってきたんだ。ファルベリアという存在は失われ、ただ罪だけが置き去りにされた。その十字を抱えるのは、この武器であって、この心だ。安全装置だけは、とっても高性能。面子は守れるだろう。
それを、発動させる気など元より無く、言うまでもないのは私の受けてきた言葉達が私に証明してくれる。大丈夫だって。

続く言葉も頷けるもの。自警団としての巡回は不可能、事件の時のみの出動、伝え石による報告を必須とし常に監視下。あ、トイレは監視下じゃないっぽい。よかった。
ファルベリアは、牢獄の中に居続ける。あの時言わなかったが、私は街に居る間にはヴァイスであり、ファルベリアではない。街の誰もが納得をしている訳でもなく、そして合意している訳でもない。ラクリモーサとは正反対に、公表されていないものとして。だから、ファルベリアという存在を、神父さまは潰したんだ。誰にも気付かれず、誰にも認められず、誰にも知られず。ヴァイスという私─武器─が生まれた。優しくあってはならない、いいんだよ、神父さま。

屈した方が、人として生きられる。ファルベリアは人で、そして、ヴァイスは武器だ。感情を持つが、それを殺さなくてはならない。悪を絶対的に穿つ武器。武器には、心は要らない。もしも悪の心が芽生えた武器になったならば、安全装置として破壊される。良く出来ていると思うよ。私はもう、人ではない。
私は、私みたいになった人を助けれるような武器であればと、それでも願う。また私みたいなのが街に現れたら、街も、その人も、助けられるような。

もし二年前の私に出会ったとしても、助けられるような。捕まえて、ちゃんと痛みを聞いてあげて、そして全ての悪を受け止める。そういう武器として。


今日、署名を集める日だったんだっけ。どうあろうと私の不等号、その言葉は前に聞いたまま。分かっている、それでも、不安。私の事じゃないのに私も不安になるのはなんでだろ。こんな、消えない傷を負わされているのに。
そう言ってしまえば、神父さまからのこの右眼の無さえも今は愛おしく、風化と、そして変わった心の現れでもあるのだろうか。二年という月日を跨いで、また会った。街の中で殺し合い、牢の中で同じ神を見る。死を与え死を望み死を嫌い死を好み、そして生にすがり付いている。抗って、抗い続けて私達はここにいる。

赤禍ツは二度と、現れない。それと同じく、あの時のラクリモーサはもう二度と、現れないんだろう。確かにあの言葉、前の貴女なら言ってそうだと思っちゃったよ。
けれど、生きて、最後に寿命として死にたいな。見届けてくれるなら、私は嬉しい。私は街と人を守り続け、貴女は街と人を見続けて生きる。大きく重たい罪の十字架を背負うには、ちょっと足腰の力が足りなさそうだ。けれど、私も貴女も、一人じゃない。
二人共に、神父さまに救われたんだよ。それを自分勝手とか言っちゃうけれど、それが行使された神の愛なら、存分に受け止めていたい。
二度と会う事は無いかもしれない。そして、一方でまたこの世で会えるかもしれない。あの世の事は良いんだ、多分会えるだろうし。とっても数奇な運命だと思う。またお話してみたいんだ。のんびりとで良い、シスター・ラクリモーサとして、ね。
もしまた会えたのなら、その時は。

十字架の、二十四の跡。

背負っていこう。うん、大丈夫。もう一人じゃないから。



[↓old][new↑]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!