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■それぞれの、形
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 次の日、午前の会議が終わり、午後の会議までの休憩の間、早速久実に連絡を入れる。

『雅恵、ロンドンにいるの?行く行く!』

 久実は即答でそう言うが、リカルドは大丈夫なの?

『この週末はリカルドもロンドンだもん。それに、雅恵と一緒なら、リカルドも何も言わないって。私より信用してるみたいだし。』

 久実はそう言って、クスクス笑う。

「じゃあ、また週末に。土曜の予定がまだあやふやだから、はっきりしたら連絡するから。」

 そう言って電話を切る。そして顔を上げると、目の前には支社長が。

「永井さん、さすが本社、海外事業部の有望株だねえ。朝の会議の内容は、すばらしかったよ。午後からも、その調子で頼むね。」

 ニコニコと話しかけてくる。

 仕事のことで褒められると、普通に嬉しい。

「ところで、電話の相手は、庄田さんかい?」

 支社長・・・どこから話を聞いていたのか・・・。まあ、支社長自体、久実と面識あって、本社勤務の頃、久実と一緒に仕事したこともあるし、支社長としてロンドンに来てからも、久実のロンドン出張の時には顔を会わせていたはずだし。

「彼女が会社を辞めたのは、残念だったなあ。永井さん、庄田さんにロンドンに来た時は、ロンドン支社に顔をだしてと、私が言ってたと伝えといてくれないか。・・・でも、彼女の場合、退職の理由が理由だから、来たくはないだろうけどねぇ。」

 本当に、残念そうに支社長は言う。・・・て言うか、この人、どこまで情報通なんだか。

 このロンドン支社長だけじゃないけど、会社の上層部に、久実は気に入られていたからなあ。

「永井さん、庄田さんの結婚式行ったんだって?どうだった?」

 そんなことまで知ってるんだ。

「いやあ、すごかったですよ、国際色豊かで。久実はとても綺麗でしたし。」

 私が言うと、本当に残念そうな顔をする。この人、まさか本気で狙ってたんじゃ・・・?

「いやいや。でも彼女が幸せなのが何よりだ。ちょっと気の毒な辞め方だったしな。」

 私と支社長が、久実の話題で話しこんでいるとマイクが姿を見せる。

〈ウォーレンくん。午後からも頼むよ。〉

 支社長はマイクに向かってそう声を掛けて、

「じゃ、永井さん。午後も期待してるから、よろしく。」

そう言って去っていく。

〈支社長と盛り上がっていたけど、なに話してたの?〉

 日本語のみで話していたので、会話の内容は聞かれていない。

〈本社にいた時の話をね。〉

 久実の話を詳しくして、興味持たれたりしたら、後々面倒なことになりそうだから、とりあえずそうごまかした。

〈午後の会議が無事終われば、部長が食事連れて行ってくれるって。〉

 マイクはそう言うけど、それはそれでありがたいような、めんどくさいような・・・。かといって断るような立場ではないんだな、これが。




 その午後からの会議は、午前中のものと比べると、すんなりとは行かなかった。

 ロンドン支社をあげてのプロジェクトなんだけど、やはり反対派はいるわけで、午後からの会議はその反対派が出席。細かい所までチェックを入れてくる。

 まあ、前もって準備はしてあるので、うろたえることではないけど、こういう場面でのマイクの頭の回転の速さは、見事。上手く話を返すことができる。

 ただ、応答が多くなってくると、だんだん強引に物事を進めようとするようになるが。

 山下さんがここまで進めてきたプロジェクトを、変な形で進められるのは、嫌だ。もちろん、潰すわけにはいかない。

 反対派って言ったって、このプロジェクトをマイクの所属するチームが進めることに納得いかない・・・ってだけで、プロジェクト事態に反対してるわけではない。結局はロンドン支社内の派閥争いのようなものよ・・・と、ロンドン支社の女の子からの、事前情報も入っている。

 マイクの発言の隙を見て、話に割り込み、後は私が話を進める。

 ロンドン支社に関係のない私が出たほうが、話がうまく収まるから。

 山下さんだと、こういう時に上手くまとめるんだけどなぁ・・・。



 何とか無事、会議も終わり、後は明日の取引先関係者を含め、最終プレゼンで終了。明日は形式だけ・・・みたいなものだから、とりあえずプロジェクトは9割方成功したようなもの。

 それもあって、マイクの上司からの、食事のお誘いなんだけどね。


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あきゅろす。
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