■青天の霹靂
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親友の夏樹のウエディングドレス姿はとても綺麗。そして隣には新郎の白石君が寄り添っていて、二人ともとても幸せそう。
「美恵子、次はあんたの番だからね。」
夏樹がそう言って私にブーケを投げる。
ごもっとも。
夏樹の友達の中で、独り身は私一人。他はみんな所帯持ちだ。
花嫁のブーケをもらうと幸せな結婚ができるとか、次に結婚できるとか言うけれど、本当にそうなのか? 私はじっともらったブーケを見つめた。
ブーケもらったのも、これが初めてではないんだけどなぁ。
周りにドンドン先を越されてる。結婚どころか、恋人の一人もいない私じゃ、嫁き遅れるのは仕方が無いか。でも、なんかむなしい。
だって出会いが無いのだ。
花の二十代、仕事仕事で過ごしてきた。そして気がつけば職場には年下の男ばっかりで、私より上の人って言えば、それこそ所帯持ちのおじさんばっかり。
「見合いするしか、他にないかなぁ。」
私は小さく呟いた。
「青木さん、俺の友達でいい奴がいるんだけど。」
その私の呟きを聞いていた白石君が私に突然話しかけてきた。そして、
「おーい、長町。ちょっとこっちこいよー。」
と、一人の男の人を呼びつけた。
その声に振りかえった背の高い男の人がこっちに向かって歩いてきた。
…はて、どこかで見たコトがあるような、ないような…。
「こっちが俺の友達の、長町健二。そしてこちらが夏樹の友達の、青木さん。」
白石君が紹介してくれたので、とりあえず二人ともが、
「はじめまして。」
と、頭を下げた。そして顔を上げた長町さんは、私を見て不思議そうな顔をする。
やっぱり。絶対どこかで会った事があるんだ。
「どこかで…会った事在りますよね。」
長町さんも、そう言う。
ただ、どこで会ったのかは全然思い出せない。
私は仕事ばっかりで出かけることなんてめったに無いし、スタンドのお客さんならだいたいは覚えてる。
気になるんだけど…。
結局、どちらも思い出せずにそのまま二次会の会場に。
なりゆきで長町さんと隣に座り、いろいろたわいも無い話をする。
ふと見ると、テーブルの上に重ねて置かれた長町さんの手。爪の周りが黒く汚れてる。よく見ると手のしわも。
「あ、俺の手、汚れてるでしょ。仕事でね、洗ってもなかなか落ちなくて…。」
長町さんはそう言ってバツが悪そうに笑った。べつに汚いとか、言うんじゃない。
だって私も同じだもん。
仕事で、オイル交換とかすればすぐに手は真っ黒。で、やっぱり洗っても落ちないんだ。
「仕事って、何をされてるんですか?」
私は少し興味が出てきて、聞いてみた。
「スタンド行ってるんです。この春昇格してなれない所長をやってるんですけどね。」
長町さんはそう言って笑った。同業者かい。
「えー、私もそうなんですよ。」
同業者となれば仕事の話でものすごく盛り上がる。私達も例外ではなく、そのあと夢中で仕事の話をしていた。
「どこで働いてるんですか?」
長町さんの問いかけに、
「天神町の川岸石油。」
私がそう答え、
「俺、天神町の大和石油…。」
長町さんがそう答えるまでは。
大和石油の社長と、うちの川岸石油の社長はものすごく仲が悪い。スタンド業界でも有名なほど。
ことあるごとに対抗意識を燃やし、相手を打ち砕こうとしている。
「大和石油にだけは負けるな!」それがうちの社長の口癖。
しかも。同じ天神町にある川岸と大和。
他にもいくつかの小さいスタンドはあるけれど、うちにとって商売敵は大和石油天神町SS。
多分、それは向こうも同じことだろう。
「どーりで…。」
二人が同時にそう呟いた。
そりゃ、見た事あるはずだ。すぐ近くで仕事してんだから。
さっきまでのわくわくした気分は吹っ飛んでしまっていた。
目の前にいるのは商売敵。気を許すわけにはいかない。
楽しい二次会の席で、私達の間にだけ、冷たい風が吹き抜けていた。
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