月三物語
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涼からのもう一枚のチケットの日――大学で赤月と会って話をした。青木の事で――
「もう済んだことだから……」
そう言って赤月は笑ったが俺には奴の気持ちが痛い程伝わって来る。
「……赤月、何で気持ちを誤魔化すんだよ? 本当は……」
悲しそうな顔に、この前の涼の姿がだぶって見える。俺達はまだ、たった十数年しか生きていないと云うのに……
如何に自分が幸せだったかが分かる。何の苦労すらしないでぬくぬくと育ってきた間に、コイツらはどれだけの地獄を見てきたのか……
知らずに涙が頬を伝い流れていく。赤月は困った顔で言った。
「別に、誤魔化してはいないよ。月島……手を出して」
赤月は少し震えた手を俺に重ね記憶を送ってきた。その……壮絶な経験に、もう何も言うことが出来なかった……
***
前回とは、会場も客筋も全く異なる披露会には俺などは場違いな空気が流れている。
「あらまあ、奥様。お久しぶりですわね。やっぱり見逃せなくて居らしたのでしょう? 」
「本当に。今夜の披露会は事実上、美月流の家元を決める為の会ですものねえ? 」
「楽しみですわね。果して涼様と竜様、どちらが家元に御成になるのでしょうね? 」
俺一人、その場にそぐわなくてソワソワしてたら肩を叩かれた。見たら赤月がにこにこしてチケットをヒラヒラさせていた。
「涼が付き添いしてくれって。多分、月島はこう云う所は馴れてないだろうから」
現金なもので、知り合いが居ると周りが気にならなくなり二人で指定された席に着く。
やがて、意外な事にロックの音楽が流れてきて涼が登場した。でも、以前の衣装とは全く違う……鮮やかな深紅の着物を着て、背中迄ある艶のある黒い髪を下ろしまるで別人の様だ――
涼は音楽と同調し踊りながら、豪華な花ばなを生けていく。その一体感に最初は眉を潜めていたおば様連中も口をポカンと開け魅了されている。
隣の赤月は俺に話した。涼の気持ちが知りたいか? と……
「月島……手を出して……」
言われるまま、手を差し出すと赤月も手を添える。
『月島、涼の愛が……ここにある君に向かって……』
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