月三物語
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青木を追い掛けて赤月の家へ行った次の日、大学で二人の姿を見掛けホッとした俺は、涼を捜し出して声をかけた。
「あっ、浩司〜章吾来てたね。良かったぁ……」
「涼、話があるんだ」
唐突に話を切り出した俺に、涼は二枚のチケットを差し出しにっこりと笑って言った。
「浩司……来てくれる? 」
俺が受け取ると安心した顔をして走って行ってしまった。
手の中には、日付が違う二種類のチケット。一枚はライブハウスで涼達のバンドのチケット。もう一枚は……
***
さほど広くないライブハウスは入りきらない程の客で埋め尽されている。当日のチケットは完売になっていて、買い損ねた奴らは何とかチケットを手に入れようと必死に中に入ろうとする俺らに声をかけてくる。
「ねぇ〜二万で買うからさぁ〜売ってくんないかな? 」
「いや、招待されたから……売れないよ」
誰からかと聞かれボーカルだと答えるとその場にいた奴らが争う様に俺に詰め掛け話しかけてくる。
「本当に? ボーカルのリョウと知り合いなん? 」
「スンゲ―良いなぁ〜憧れのリョウと知り合い! うらやましいぜ」
な、何だ? そんなに人気があるバンドなのか? と聞いてみると。
「ん〜人気が出たのはリョウが入ってからだな。今日はサヨナラコンサートだから何時もより多いかもな」
どうやら、涼は今日でバンドから脱退するらしい……
「お待たせしましたっ! ダーク★ムーンのコンサートただ今から始まります! 」
チケットを持ってる者は、歓声を上げながら中へと入って行く。俺もチケットを出したが、店員がチケットを見た途端、俺を座席ではなく別の控え室らしい部屋へと連れて行きドアをノックした。
「は〜い、入って良いよ」
中から涼の声が聞こえる。入っると涼が奇抜な衣装に身を包み、特殊なメークをして笑ってた。
「どうしたの? そんな変な顔して。今日はオレの最後のステージだから楽しんでよ」
そう言って涼は時間だと呼ばれステージに向かって行った。
店員に案内されて着いた席は一番前の特等席で、座ると直ぐに、音楽が流れてステージが始まる――
***
潮が引けたように誰も居なくなったステージ上で、普段の格好になった涼は、少し淋しそうな顔で楽器達を愛しむ様に触れていた……
「――涼……――」
俺は静かに涙を流す涼をただ、見てる事しか出来なかった――
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