月三物語
ページ20
涼の舞台が終わってから、弟の竜の番だったが、最早、どちらが家元にふさわしいかは誰の目にも明らかだった。
「涼、何て言ったら……最高だったよ」
涼の楽屋で二人だけで対峙する。赤月は舞台が終わると俺の肩を叩き帰って行った。
「ありがとう浩司……」
舞台上の衣装ではなかったが、やはり着物姿の涼は長い髪を後ろで無造作に上げていて、眩しくてまともに目を合わせられない。
「……浩司?……――」
呼ばれて視線を上げて涼を見ると、気が付いたら涼は俺の腕の中に……抱きしめてきた。
「……涼、愛してる……」
涼は頭を上げずに頷いている。細く、折れそうな体をそっと抱きしめ艶やかな髪を撫でる。
「姉さん?誰だ、アンタは!」
ドアを開けて、高校生ぐらいの男が険悪な顔で立っていた。
「竜……あのね。この人は……」
「聞きたくない! 涼、聞きたくないよ……」
云うなり身を翻しドアの外に出て行った。
涼を見ると涙を溜めきつく唇を噛み締めている。
俺は……知ってしまった。あってはならない恋を……竜―彼の思考から強く激しい思いを……
「ごめんなさい浩司……」
目の前で涼が消えようとしている。とっさに手を掴み引き寄せて……一緒に≪跳んだ≫!
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