運び屋 青木瞬介の日常 俺の報酬、ヤツの企み 「おい、確認しろ!」 サツが荷物に顎をやり、部下に命じた。 「はい!」と言いながら、小走りに荷物に近付いて来たのは、麻薬捜査課には不似合いの、背のちんまい女捜査官。 「先輩〜有りましたよ〜!」 この、緊迫した状況をぶち壊す、ま伸びしたセリフ。 「よし、でかした。コイツら皆しょっ引け!」 先輩捜査官も嘘臭いセリフを吐き、売れない大根役者の様だ。 ワゴンの中では、探偵が頭を抱え、うつ向いている。 笑いを堪えるのに必死なのだ。 「ま、待って下さい! 麻薬なんか、そんな筈は!」 ナルシーは気が動転していて、この三文役者達の下手な芝居には気が付く筈もなく。 別送だと言われ、違う車に押し込まれた時に、後ろの座席に黒服を着た三人がロープで縛られて、居るのにも気付かぬまま。 大根役者である、月島と遊木は署へ戻る為に車を走らせて居たのであった。 *―*―* 「お疲れさま〜」 呑気な声で出迎えたのは章吾で、オレはまたしてもマスクを剥ぎ取り玲児に苦情を言った。 「オマエなぁ〜何で俺ばっかりマスクなんだよ! 息苦しくて仕方ねえだろ?」 「だってさ〜この前女装は嫌だって言っただろ? だからさ」 それにしても、余りにも酷いツラだ。 俺は剥ぎ取ったマスクの面相を見てブルッと、身震いをした。 『こんな面に生まれなくて良かった……』 「しかし、月島達の芝居は酷かったな〜もう少しで吹き出す処だったよ」 「ホント、アレじゃあアカデミー賞なんて夢のまたユメだね」 「まあ、ナルシーが騙されてくれて助かったな!」 俺達は、思い思いの感想を言いながら、事務所にへと帰る。 報告を待ってる依頼人も向かっている筈だ。 「ところで、報酬は俺達で分けるのか?」 流されるままに仕事をしたけれど、報酬の事は相談してなかった。 「報酬〜? シュン、アンタはイタいけな女の子からお金を取るつもり? ちゃんと前渡しで報酬は渡したよ」 玲児のヤツ、何を言ってるんだか。 その時ハタと、気が付いた! もしや、ヤツが言っている報酬とは―― 「おいしかったでしょ〜ケーキ」 ヤッパリ――もう、ヤツの紹介して来た依頼なんかは、引き受けるものか! 俺は、堅く誓った。そして、思い知った。 玲児に関わると、ロクな事にはならないと。 act2.END 06.27 [前頁][次頁] [戻る] |