◎ 壬生浪顛末記 _
◇1◇
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「松本さん出て行きましたよ」
「和也、後を着けろ。くれぐれも気づかれぬ様に」
「承知」
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それはまだ
今日、京の民をも脅かし
血の雨を容赦なく美しき京に降らす
恐怖の組が結成される前
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その起源は田舎剣客の集まりに過ぎない
ただの古い道場でした
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後の局長、相葉雅紀先生はこの時
貧乏道場の頭に過ぎず
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副局長、松本潤は
その幼なじみに過ぎなかった。
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以前他流の師範代だったのにも関わらず
最近この道場に入門してきたのは
風変わりの櫻井翔。
後の、総長ですね。
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大野智は京に登る以前もその後も
おおらかさの変わらぬ副長助勤、八番隊隊長
彼は、私と年の頃も近いので
良き、理解者でした
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そして、私は
副長助勤、一番隊隊長の二宮和也
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そんな、さほど大きな出来事も無い
退屈な道場に珍しく事件が起きたんです
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最も、京で起きる残酷な事件の数々に比べれば
それも小さな事ですが
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私が近藤先生に呼ばれた日…、
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そうだ、あの日は大雨が降っていて
姉上が外の作物が雨にやられると
騒いでおりましたっけ
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不安そうに外を見る姉上の隣に
座って空を眺めていますと
珍しく相葉先生が家にやってきたんです
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傘も、ささずに
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「和也」
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いや、まさか先生直々に
お見えになるなんて無かったから
驚きましたよ、とても
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声が聞こえたときは
作物の心配をする姉も思わず私の方に向き
目を合わせました
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「先生!どうしたんです」
「潤が…、」
「は?」
「潤が昨晩、一人で出掛けたきり
帰ってこないんだ」
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びっくりしますよね
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二十代の半ばを過ぎている男が
たった一晩道場に顔を見せない
その一つ下の男の心配をしているのです
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それも、顔色を変えてまで、ね
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とりあえず、道場まで向かおうと
先生に傘を手渡します
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先生はいつでも焦り過ぎなんだ
松本さんが、何処かの野良犬に喰われる様な
ヤワじゃあ無え事知っているはずなのに
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そんなに、松本さんの何が心配なのでしょうね
この時の私には全くわかりませんでした
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さて、あろう事か、その道場への道で
ばったり松本さんに出くわしたのです
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ほらね、やっぱり心配にも及ばなかった
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松本さんは「よお、」何て片手を上げて、
無論何ともないのです
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「何とも無さそうですよ」
「そういう事じゃねえんだ」
「え?」
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私らの先を歩く松本さんを見ながら
相葉先生はやはり
心配そうに目を細めておりました
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