◎ 壬生浪顛末記 _
◇2◇
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松本さんはそのまま自身の兄上様の家に
寄る様だったので、
すぐにまた、相葉先生と二人きりになりました
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「なぜ、そんなに心配なさるんです」
「最近、此処らで流行ってる辻斬りだよ」
「辻…斬り?」
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この江戸の外れでは
夜になると頻繁に浪人が斬られるように
なっていました
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大抵は見栄を張った様な
ご立派な刀を持った人が多いらしく
その斬られ様と言ったら
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無茶苦茶なものであったと言います
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斬り傷でどこぞの流派の者の仕業か
大体わかるんですけどね
困ったことに今回の犯人は
見事にごちゃまぜだった
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そして疑われるのは私達の習う
流派なんですよ
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どんな流派かって?
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まあ、焦らないでくださいよ
まるで相葉さんみたいだなあ
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私達の流派は一言で言えば
ただの田舎剣法でした
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単刀直入に申しますと
その流派は人を殺すべくあるようなもので
完全に実践向きでした
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まあ、江戸にいた頃といえば
人殺しや戦なんてとんだ物騒な事だと
私だって思っていましたがね
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面を被っての竹刀での戦いだと
さほど強くはないのですが
真剣だとこれが驚く程強い
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相葉先生も松本さんも
元は百姓でしたから刀を持つことなんて
まず無かった
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実践で試してみたくなる気持ちも
わかりますよね
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武士に異常な程憧れる訳も
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ちなみに、私の父は
奥州白河藩の脱藩士です
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だから、私は武士から生まれたものの
農民としての血は濃い気がしますけどね
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それも、相葉先生と松本さんに
育てられた様なものだから
当然て言ったら当然ですけど
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さて、話を戻しますと
そんな人殺し目的、
邪道とも言える剣法の中でも
松本さんは更に度を越してました
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一応、決まりなどはあったのですが
松本さんは全くその枠に囚われなかった
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だから、当時の師匠も
松本さんには目録だけ与え
実力は確かだが
師範代格には結局上がれずじまいでしたよ
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最近、流行っている辻斬りなんかも
どの流派の斬り方にも当てはまらない
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ならば、私達の流派に違いないだろう
てな、訳です
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私は当時十代の少年でしたし
得意なのは突きなのでね
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そんな何太刀も損ねたりは致しません
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相葉先生も大野もどちらかといえば
おおらか、それにあの時は
人を斬ることに少し恐れを感じていた様です
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…、櫻井さんですか?
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あの人は元々違う道場の出ですから
まず、ないでしょう
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あと、人を殺せるだけの能力がある人といえば
松本さんしかいなかったんですよ
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[*ばっく][ねくすと#]
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