誰かに聞いた怖い話
・・・廃墟にて9
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『いや…それはもっと上の方の筈だよ…兄貴達が酒盛りしていたのは、もっと上の階だよ』
女の子の質問にそう答えながら、彼は斜に構えたバットをゆっくりと下ろしました
そして強く握り締められたその彼の拳が、グリップへの圧力を徐々に緩めていった事も、私は冷静に覚えているのです
『本当に景色は良いんだよなぁ…もっと上から見たら、きっと綺麗だろうなぁ…多分、海がキラキラ輝くのも見えるよ』
足元に散らばるゴミの山を避けながら、大きなガラス窓へと近付いたもう一人の友人は、窓越しに広がる景色をぼーっと眺めていましたが、不意に振り返り部屋の中をキョロキョロと見回し始めたのです
けれども、そこに何も見出だす事は出来なかったのか、彼は頭を小さく横に振りながら…次の部屋を探索しようと言い出したのでした
『そうね、上の階の皆に負けちゃうよ』
そう話を続けたのは、さっき迄友人の陰に隠れて、彼のTシャツの裾を掴んでいた彼女でした
私は此の時、友人の仕草が気になっていたのです
何故、あんな仕草をしたのだろうかと…まるで窓ガラスに何かの姿を認めて、慌てて後ろを振り返った…私にはそう思えたのです
此の部屋の中に…
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