誰かに聞いた怖い話
・・・廃墟にて8
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そして手にしたバットを斜に構えたまま、恐る恐る部屋の中に足を踏み入れた友人の後姿に続いた私達は、此処で宴会を開いたのであろう者達が残した、壁一面への悪戯書きを目にしたのでした



その壁に書かれたそれらの文字は、一読しただけでは何が書いてあるのかすら分からない当て字だらけの漢字の群れで、その余りにも貧弱な表現力には笑いすら覚えても可笑しくは無かった筈なのです

けれども、その時の私達には、そんなゆとりはありませんでした



『なぁーんだ…別に何も無いじゃん』

そう安堵の溜め息と共に平静さを装おうと強気な発言をした彼は、例の此所から逃げ帰った暴走族の兄を持つ彼だったのです



けれども、私は知っていました

彼がその心に芽生えた怯えを必死に隠そうと、業と強気な態度をとっている事に…

その手にしたバットのグリップをきつく握り締め、強張り引きつるその顔で辺りを窺っていた事を…



そんな僅かに震える彼の両肩と、真っ青な顔に流れ落ちるその汗で、私は彼の本心を見抜いていたのです



『此処なの?あんたの兄さん達が酒盛りをしていた部屋って?』

そんな質問を口にしたのは、私達のグループの紅一点でした

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あきゅろす。
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