誰かに聞いた怖い話
・・・廃墟にて10
.
もう幾度、此の手に馴染む形のドアノブを回した事でしょうか?
私達は此の時既に、自分達が何階に居るのか直ぐには思い出せない程、階段を上ってはドアノブを回すと言う単純で退屈な作業を続けていました
残念な事に今迄調べた各階のどの部屋にも、友人の兄達が逃げ出さなければならなかった原因を見出だす事は出来ずに、私達は退屈な作業の繰り返しに辟易してさえいたのです
そして縁起の良くないとされる四と九を除いた八室が、長い廊下に一列に並んではいましたが、鍵の掛かっていない部屋は数える程も無く、私達はいつしか当初の目的すらも忘れて…
ただ単に相手よりも先に上の階へ、最上階へと上る事だけを考えていたのでした
『何処も同じだね…悪戯書きに…ゴミの山…出るのはそんな物ばかり…おーぃ!幽霊さーん、出ておいでー』
此のビルの中に立ち入った頃の、おどおどした態度もすっかり消え失せた彼女は、そんな冗談すら言える程になっていました
でも、彼女のその顔が輝きを失い、恐怖に歪み引きつるのに、それ程の時間を必要とはしなかったのです
『なぁーんだ…結局最上階迄上って来ても、何も起きなかったな…つまんねぇの』
[前頁へ][次頁へ]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!