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 受話器を置いたカウラはコルドと頷き合って視線を転じた。
 その先にはゴルデワ政府一行がいる。カウラは人波を縫って彼らに近付くと用意が整ったことを告げた。
「え?」
 最前まで小難しそうな顔をしていた世界王がぽかんとする。
「上層部がお会いになります。お手数ですが移動をお願い致します」
 神、内閣官房府、そして元老院との面会だ。それを聞いた世界王は不安そうにフィーアスを省みた。
「大丈夫ですよ。何も怖いことはありません」
 そういうとフィーアスは世界王の手を握る。相手の方も握り返し互いを鼓舞するように見つめ合う。
「…………」
 直視して良いものやら迷っているカウラに西殿秘書官が近寄った。
「姉弟みたいでしょう。まあ、お互い大本命がいるのを知っているから出来ることですが」
 確かに、そう言われると色っぽさはゼロだ。
「いやあの、さっきも言いましたけど俺、子供のころからジオに縛られてたので偉い人に失礼のない接し方とか良く知らないんです」
 失礼な接し方は知っているのかと護衛たちから揶揄が飛ぶ。これに対して自分の悲惨な少年時代を舐めるなよと世界王が応じた。
 そんな世界王にフィーアスが請け合う。
「私にして下さるように話して頂ければ問題ありませんよ。大丈夫です、私も一緒に行きますから」
 手を握ったまま立ち上がった両者を思わずカウラは制止した。他の時ならいざ知らず、今の酷い恰好のままの彼女を上層部の前に出す訳にはいかなかった。
「いいじゃないですか。寧ろその恰好のまま出た方が事態の緊急性を理解して頂けると思いますがね」
 渋るカウラに護衛の一人が言う。
「…………緊急性は我々も重々理解しております。ですからこうして対策本部を――」
「それは昨日、元老院のところに不審者が出たからでしょう? もしこれが宮殿の外の出来事だったら、貴方の言う上層部は未だに日常業務をしていたのではありませんか?」
 西殿秘書官が護衛を諌める。彼は素知らぬ顔でそっぽを向いたが、カウラは部下に視線を遣るので忙しい。
 昨日の件は未だに箝口令が解かれていない。これからゴルデワ政府に対して抗議しようという段階なのだ。視線で「喋ったのか」と問うと彼女は滅相もないと言わんばかりに首を振った。
「その話は後でしましょう。――ほらザガート、お前はそのために来たんだからシャキッとしろ。すいません、ご案内頂けますか」
 西殿秘書官がフィーアスさんも宜しくお願いしますと続けるのでカウラは難色を示す。
「いえ、ですから……」
 何度見ても部下の姿は凄まじい。紅隆の血だと言われたからか、余計おぞましく見える。
「行きます」
「! ロブリー……」
「行かせて下さい副長。私はそのために世界王の妻になったんです」
 ゴルデワ陣営が揃って彼女を見た。
 これまでフィーアスは一貫して個人の意思のみを理由にコーザ・ベースニックに嫁したと主張していた。彼女が世界王に嫁して以来見てきたキリアンも、フィーアスが自分や夫の立場を結婚の理由にしたところを見たことが無かった。
 見ているこちらが恥ずかしくなるくらい、フィーアスはコーザ・ベースニックを愛しているのだ。当然、周りの苦言など一顧だにしてこなかった。
 キリアンは僅かに眉を寄せる。キリアンもこの目で見ていた。先程紅隆に言われた台詞は自分の想像以上に彼女の心を抉ったようだ。
 部下と打ち合わせを済ませたコルドがやってくる。カウラに先導を頼んだ筈なのに一向に動かないのを不審に思ったようだった。
 フィーアスがこのまま同行する意向を示していると告げると、彼もカウラと同様難色を示した。
 五分程押し問答を続けた末、末尾に控えるという条件付きで彼女の同行は許可された。上層部が待っている、こんなところで時間を無駄には出来なかったのだ。





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