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 サンテ上層部との接見を終えたゴルデワ一行は、泣かせ宥めたフィーアスに護衛をつけて着替えに帰すと最初に通された応接室を臨時の休憩室として与えられ、一先ずそこに戻ってきた。
 応接室にしてはかなりの広さがあり、追加で運び入れてもらったソファ一台も難なく納まる。
 ザガートは裸足になって絨毯敷きの床を歩く。壁紙や窓、カーテン、飾り棚、電飾などを物珍しそうに見て回ると追加されたソファに横になった。
 彼はぼんやりと天井を見上げ「怖かった……」と呟いた。
 キリアンから見ればザガートの方が余程脅威的な存在だが、確かに彼の言には同意する。
 まさか神の口から「死んだら奴の首を持ってこい」などという暴力的な台詞が出るとは思わなかった。
 神の一、ジーク・ルイという男の発言は、ゴルデワ側のみならず、いやそれ以上にサンテ方に大きな動揺を与えた。
 内閣官房長官だという女がすぐさま取り繕っても彼はそれを押しのける。憎悪の眼差しで世界王を睨み据えたのだ。
「でも死んでもすぐには持ってこられないよな。死亡確認がされた時点で外出不可命令が出るし……」
 流石、診断テストを二度も受けただけあってザガートは政権交代時の事情に明るい。世界王の遺体の持ち出しが可能だったとしても、実際に携えて神の前に立つのは次の政権の者だ。果たしてそれが叶うまでどれだけの時間がかかるだろう。防腐処理済みの首を持って来いという事だろうか。
 ジーク・ルイの態度が豹変したのは重体に陥った世界王西殿、北殿両名の詳細データを渡した時だった。
 直前までは彼も他の者と同様、フィーアスの有様に引き気味だった。それが顔写真を見た途端一変した。
「名前がどうとか言ってたな」
 残った護衛官のショーンが呟く。彼は窓辺に身を預けて外を眺めているように見えるが、実際は電脳ネットワークの海をダイブ中だ。西方がロブリー家敷地内に設置した専用電波塔を経由して月陰城のメインブレイン、ソルフにアクセスしているのである。
 因みに、今回随行した護衛官は二人ともフルビルディーだ。外部は勿論、護衛対象がザガートの場合は内部攻撃の懸念もある。彼が本気になればフルビルディーとて敵ではないが、脳を攻撃されない限り即死はしない。救援要請を出す隙が出来るのだ。
「ディレルって本名何だっけ?」
「ジェムだろ」
 数年前から出入りするようになった彼の夫人は一貫して夫をそう呼ぶ。
 現世界王は即位の際に全員が偽名を定めた。加えて当時は互いに初対面だったので、もう偽名の方が定着してしまっている。
「……駄目だな」
 ショーンは壁から身を起こして振り返り、キリアンの向かいに腰を下ろす。調査は芳しくなかったらしい。
「ジオ入り前の足取りがよく分からんな。……ま、そういう奴は多いけど」
 公非公式問わず企業や団体に所属していればその間の経歴の入手は容易だ。ディレルも六合連邦軍の所属までは分かっている。しかし彼は軍を自ら退職しており、以後数年間がぽっかりと抜け落ちていたのだ。
 扉がノックされたのは日々仕事に追われているザガートがうつらうつらし始めた頃だった。相手は厚生労働省副長官で、頼んでおいたクレウスの面会が整ったと知らせに来た。
 クレウスの件は一先ず全て保留にしながらも顔を合わせたいと申し出たのだ。西方としては、今度の件に関係あっても無くてもゴルデワ人がサンテに密入国しているという時点で由々しき事態なのである。
 外務庁はこの虫の良い申し出を当然のように渋ったが、キリアンが外務庁長官に囁いたのだ。
「もし対処が遅れたことでフィーアスさんに危険が及んだら、紅隆は容赦なく元老院の首を刎ねるでしょう」
 以前彼女が意識不明で発見されると翌日には乗り込んできた紅隆だ。信憑性があったのだろう。





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あきゅろす。
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