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 三大王への恨みならばザガートも一家言持っている。語らせたら長いのは承知していたのでキリアンは曖昧に笑って話を戻した。
 公国との関係についてはあくまで月陰城としての物だ。西殿、北殿両名を重体に追い込んだ今回の事件に関わるのはここではない。
 指でモニタをこつこつと叩いた。
「いいですか、こいつらはサンテ国内――もっと言えばこのセルキンス州内にいたんです。そしてこの目撃情報の他からもこの二人の情報が入っています。――フィーアスさん」
 キリアンの意志の籠った視線に射抜かれ、フィーアスは姿勢を正す。
「昨日、何か変わったことはありませんでしたか?」
 勿論あった。
 だがそれは、宮殿全域に箝口令が敷かれている極秘情報の筈だ。
 フィーアスは暫く黙っていたが、こういう言い方をする以上キリアンは知っているのだと悟って息を付く。
「…………またスパイを入れているんですか……?」
「紅隆が貴女にばらして以降、入れてませんよ。たれ込みがあったんです」
 宮殿職員の中でゴルデワへの内通者になり得る可能性が最も高いのは自分だ。だが勿論フィーアスは彼らに話してはいない。
 何のことだ、とザガートが問う。元老院の常駐する建物に不審者がいたのだとキリアンが答えた。
 彼は端末を操作し別の画面を開いた。経歴書のようだった。
「エレ二・クレウス。儀堂方戦術諜報候補生だったが、訓練初期の段階で辞表を提出している。何か特別な事情が無い限り、根を上げたというところかな」
 儀堂の戦術諜報部は突き詰めれば世界王政権の回転ために存在するといっても過言ではない。実際、月陰城内にはここから派遣された特務課という独立部署があり、三代前の世界王は彼らに暗殺されている。
 クレウスは、そういう実力を得ようとしている途中だった。
 キリアンは薄い端末を起こしてモニタをフィーアスに向ける。
「昨日、外務庁がこの男を捕まえたんですよね」
「……私は、厚生労働省ですから……」
 詳しく知らないと含ませる。ただ、内閣官房府が開いた会議でゴルデワに対し抗議が決定したとは聞いていた。コルドがこちらの対策本部に来ているなら、抗議内容の精査をしているのはタインだろう。
「この件について外務長官から話があるかも、と待っていたんですが、彼は匂わせもしませんでしたね」
 対策本部長席のコルドは忙しそうに部下たちに指示を飛ばしている。しかし彼らの意識がこちらに向いていることは分かっていた。
 一瞬、視線がかち合う。
 キリアンは対策本部長席に視線を向けたまま続けた。
「このクレウスから聴取によると、さっきの二人を含めた元月陰城関係者が背後にいるようです。一味の中には先代政権の者もいるそうですから、サンテについての情報が漏れています。次元口も然り。捕まえたサンテ人と言う連中の武器一式も恐らくゴルデワから流れたんだろうし、彼らに武力指導を行ったのもきっとゴルデワ人です。世界王二人が、そんな連中に襲われた」
 キリアンは一度端末を自分に戻し操作すると、それをザガートへ渡す。差し出されるまま受け取った東殿はモニタを見て顔色を変えた。
 そのあまりの変貌ぶりにフィーアスがどうしたのかと尋ねても、彼は口を開かない。暫く睨むように読み進め、電源を落としてしう。
「これ、たれ込みだって? 誰だ?」
 端末を受け取ったキリアンがちらりとフィーアスを見る。自分を気にしているような素振りに引っかかるものがあった。
 フィーアスはちらりとコルドを振り返る。
「……アリシュア、ですか?」
 彼女は以前から夫と面識があるような口振りだったし、外務庁に勤めているのだから捕まえた男から証言を得ることも可能だ。
「違いますよ」
 キリアンはそう笑ったけれど、一度湧きあがった疑惑はそう簡単に解けなかった。





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