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 シーズヒルへ行ったゴルデワ側の調査員の報告が開示された。
 キリアンが懐らか取り出したのは携帯端末で、録音していた通話を再生する。
 苦しげな女の声が掌サイズの機械から流れた。打倒紅隆を掲げる上司の影響でカウラもそのゴルデワ語を聞き取ることが出来た。
 声は単語のみで最初は意味が分からない。そのうち『車』『茂みへ』『男』『二人』『こっちへ』『隊長』『銃』『サイレンサー』『狙って』『振り向いた』『片方』『倒れた』『男が』『目』『冷気』『突風』『木が』『嘘だろ』『隊長が』『いない』『いない』『いない』『声が』『男』『三人目』『いつの間に』『手』『体が』『草』『悲鳴』『皆やられたのか』『何で』『まだ』『何も』―――『音』『パトカー』『警察だ』『まずい』『でも体が』
「…………」
 世界王らが襲撃され、ビャクヤに縛り上げられたのだと分かった。
 女の声はまだ続いていたがキリアンは再生を止める。もう十分だと判断したのだろう。
「この時点で二人は十六カ所の次元口を破壊しています。紅隆はともかく、クォーレにはかなり疲労が溜まっていた筈です。また安全なサンテであるという油断もあって潜んだ集団にぎりぎりまで気付かなかったようですね」
 地図上の赤い旗の数は六つ。
 砂糖を摂取して落ち着いたのか、ようやく世界王が口を開く。けれど話が大分ずれていた。
「私たちの前の代の世界王政権はある戦争を契機にゆっくりと沈みました。その原因を作ったのはある特殊な銃弾です」
 サンテ人たちは首を傾げる。
「足や手など、急所から離れた箇所を撃たれても内部に仕込まれた毒で相手を確実に仕留める代物です。最初に紅隆が連絡してきてこの銃弾の可能性があると情報が入ると城中大騒ぎになりました。戦争後、現物は買占め廃棄処分、製造工場は差し押さえ、製造法を知る者は尽く買収することによって根絶した筈の物でしたから。今詳しく調べていますが、同一もしくは同系統である可能性は現時点で80%を超えているようです」
 先代の世界王――コルドが知るあの人。あれだけの人物が束ねていた政府が崩れたと聞いた時は驚いたものだが、終焉にそんな事があったのか。
 フィーアスは汚れたままの頬を強張らせる。
 夫の身も勿論心配だが、世界王北殿も既に知己なのだ。フィーアスの到着とほぼ入れ違いに運ばれていった彼の姿が脳裏に甦る。
「経緯は不明ですが、そういう危険なものがこの国に持ち込まれた訳です」
 世界王政権を崩壊に追い込んだ弾丸。
 カウラはテーブルの上に置かれたままになっている携帯端末を見つめながら尋ねた。
「今の報告は、どうやって得たものなのですか? 隊長がいない、と言っていましたが……」
 フィーアスも携帯端末を見る。あの声はルシータだったが、確かに、危険なところに彼女が出てくる理由が分からない。エーデは何故止めなかったのだろう。
 ザガートにしてもそうだ。北殿、西殿が倒れている今、残る二人まで現地に出てきてもしものことがあったら、本当に四大王政権は終わってしまうのに。
 キリアンがもう一度音声を再生させる。その声をBGMに説明を始め、対策本部長副本部長は揃って絶句する。
「これは南殿の感応能力によるものです。今は聞き取れたままに喋っているのでこんな感じですが、色々難しい応用をすれば視覚変換が出来ます。
 現段階ではこの隊長という者が現場から逃走したという前提で捜査を進めたいと思っています。ただ、民衆に紛れられては見つけるのは容易ではなく、また例の銃弾を所持している可能性もありますから慎重を期す必要がありますが」
 事件の発生から既に二時間が経とうとしている。逃走したのなら既に紛れてしまっているだろう。
「そのご協力をお願い致したく」
 世界王がそう締めくくった。





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あきゅろす。
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