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 言いかえれば、それは国民を人質に取られたに等しいことだった。
 何だかよく分からない人間が、何だかよく分からない銃を忍ばせて雑踏を行く。
 先程と同じでゴルデワ側の証言だけの情報。だが事実、シーズヒルには武装集団が転がっており、留置所内に放り込まれた彼らは部隊長がいないと騒いでいるらしい。
 武器一式も本物だった。
 長らく本部を空ける訳にはいかなかったので、休憩と言う名目で一同は対策本部に戻ってきた。コルドらが戻ると、部下たちが一斉に駆け寄り報告をする。
 その様子を背に、フィーアスはゴルデワ一行を一先ず会議室の隅へ導いた。パイプ椅子に腰を下ろしたキリアンはぐったりと長机に置いたアタッシュケースの上に突っ伏す。
「ああ、疲れる」
 フィーアスは苦笑しながら彼の前に紙コップのコーヒーを置く。因みにザガートは途中の休憩室から自分でソフトドリンクを買い求めていた。
「雰囲気出ていましたよ」
「ははは、そりゃどうも」
 彼はそもそも先程のようなきつい物言いをする男ではない。送り出される際、俺のつもりでやれ、とヴィンセントに言われたのだそうだ。
 もっとも、ヴィンセント本人ならもっと苛烈に内閣の不手際を責めただろう。
 フィーアスも手近の椅子に座った。
「あの……」
 キリアンが顔を上げ、三人を挟むように対極の位置についていた護衛らも振り返る。
「さっきの話、本当なんですか?」
「さっきの?」
 フィーアスの視線はぐんぐん落ち、ヒールの爪先で止まる。言葉にするのが怖いのだ。
 暫く言い淀んだが、彼らは辛抱強く待ってくれた。
「…………銃の、話です」
 ああ、とザガートが頷き、事実ですよとキリアンが答えた。
「ただし、廃棄したり買収したりは我々ですけど、現物の調査・解析を行ったのは先代です。つまり」
「? つまり?」
「政権崩壊に伴って、それらの情報が外部に流出してしまっているということです」
 その政権中、ある程度の地位にいた者は問答無用で退城を命じられるというのはフィーアスも聞いている。高い地位にいたのだから多くの情報を持っているのも分かる。だが、流出しないように多額の口止め料を支払っているのではなかったろうか。
 その通りだと返答したキリアンだが、彼は声を潜め身を乗り出す。つられてフィーアスも耳を寄せた。
「これは今朝入った情報ですが、そういう退城者がつい最近このサンテに入り込んでいたというんです」
 同じく耳を寄せていたザガートが視線でキリアンに問う。
 モスコドライブの流出は上層部には開示されている。当然、密入国者はいるだろう。――と言うより、実際いる。ザガートよりも西方のキリアンの方が良く知っている筈だ。改めて言うようなことではない。
 キリアンはアタッシュケースから再び端末と外部メモリを取り出して起動させる。モニタに表示されたのは先程とは違う、男性二名の顔写真だった。
「彼らは先々代、三大王政権の関係者です。この二人が三十五日前、不穏な会話をしているのを目撃されています」
 三大王、とザガートが呟く。
 因みに、とキリアンは右側の男を指差した。
「この男は、今南方と全面対立している貴族の身内だそうですよ」
「はあ?」
 フィーアスには分からなかったが、ザガートにはその重大さが直ぐに呑みこめた。
 公国とジオの対立は日常茶飯事と言っていい。しかしいつの時代も、最終的にはジオが勝利を収めてきた。
 けれど今回はかなり旗色が悪い。何をやっても先回りをされているのだ。
 過去にも貴族出身者がジオの幹部になったことは幾らでもある。しかし公国対応の苦労を身をもって知っている為か、退城して実家に戻っても距離を置くものだ。
 それをあえて情報開示しているという事は――
「怨恨か」
「ザガート、声が怖い……」
 東殿の瞳が鋭く光った。





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あきゅろす。
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