[携帯モード] [URL送信]
144



 フィーアスが茶の支度を整えてやって来たのは丁度その時だった。
 外に控えた東方軍人にドアを開けてもらったらコルドとキリアンが睨み合っているのである。平気な顔をしながら各人の前に紅茶を置く。砂糖壺をザガートの前に置いて自らもカウラの横に座った。
 対策副本部長とは言え外務についてカウラは門外漢だ。口を挟まず傍聴していたが、部下に視線で問われ同じく視線で返す。
 キリアンは気負った様子も無く傾けていた首を戻した。
「ではお尋ねしますが、あなた方が把握しているというガイア・デレインの件については何か進展がありましたか? どう処分するのか決定しているなら是非お聞かせ願いたい」
 痛いところを付かれコルドは押し黙る。
 キリアンも特に回答を期待していた訳ではない。
「話を戻します」
 テーブルの上に置かれたモニタの旗の一つをタッチする。空間ディスプレイが広がり、地図の縮尺が大きな詳細な物へ切り替わった。
 市街地のど真ん中だ。
「今回、人目がある場所が非常に多かったので機材を使った一般的な閉鎖作業は出来ませんでした。閉鎖作業と言っても、紅隆とクォーレの組み合わせでは破壊と言った方が近いですが」
 キリアンがちらりと隣を見る。つられてサンテ人三人も一言も口を開かない世界王を見た。
 男のコルドやカウラから見ても彼は美しかった。
 中性的と言うのではないし艶という意味では紅隆の方が勝る。背も高いし骨格も顔の作りも男の物だが、とても自分たちと同列には見えない。厚生労働省長官のマイデルも美人だと言われるが――勿論本人に向かって言う命知らずはいない――彼には劣るだろう。
 伏せた睫毛が肌に影を落としている。ただ単純に凄いなと思っているとそんな彼にフィーアスが声を掛けた。
「ザガートさん、大丈夫ですか?」
 声を掛けられた世界王はぱっと顔を上げた。元から肌は白いが、今は何だか青く見える。
それを証明するように大丈夫だと答える彼の声は硬い。
「失礼」
 ドアの前に居た護衛がやって来ると、砂糖壺を手に取った。そして何と、その中身を大量に世界王の紅茶の中に投入したのである。
 驚くコルドとカウラを余所に護衛はティースプーンでカップの中を掻き回すが、明らかに溶解度を超えている。その証拠にカップからはじゃりじゃりという音までする。
 あろうことか、護衛の男はその状態のカップを世界王の前に差し出して飲むように迫った。
「!」
 二人は思わず眉を顰める。
 カップを受け取った世界王は、およそ紅茶では立たない「ずぞぞぞぞ……」という音をで中身を啜り飲んだのだ。
「……お見苦しいものをお見せしまして……」
 コルドらと同じような顔をしながらキリアンが謝罪する。飲み終えた世界王も緊張しているのだと弁解し同じように頭を下げた。
「人生の八割をジオの中で過ごしていまして、外の人と関わることが無いもので」
 カウラは我知らず眉間を揉んだ。物凄くデジャヴだったのだ。
 クールビューティと言ってもいい程美しい世界王だが、蓋を開けてみれば紅茶味の砂糖を食べるとんでもない甘党。同じように、カウラの上司シルヴィオ・マイデルも前述の通り黙っていれば美人と言われるが口を開くと粗暴だ。医療福祉の厚生労働省ではなく武装も許可される防衛庁の方が良かったのではと影で言われている程だ。
 もしマイデルが防衛庁長官だったらゴルデワへの武力抵抗も机上の空論ではないだろう。それを思うと厚労省でよかったのだとカウラは秘かに汗を拭うのだ。
「紅隆が空間制御して周辺への被害を防ぎながらクォーレが作業をしていました」
 キリアンが再びモニタをタップしスクリーンを広域地図に戻した。閉鎖作業の終了したポイントは青、未処理は赤い旗の地点だと説明が入る。
 シーズヒルには赤い旗が立っていた。





[*前へ][次へ#]

24/30ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!