眠れぬ夜
夏の始まり 5
焦った僕は不動からあわてて離れた。
不動の方も力を抜いてくれたから。
「あ、ありがとう絹子さん!」
立ち尽くしていた僕達を見て、絹子さんは不思議そうに首を傾げていたが、不動の方を見るとニコニコした。
「さあさあ、早くお座りになって下さいな。玲様のお友達がいらっしゃるなんて随分と久しぶりなもんで嬉しいんですよ。しかも凄い男前なんですものねぇ、見惚れちゃうわ。あらやだ、私ったらついついお喋りしてしまって、それじゃあ失礼します。」
僕が絹子さんの出ていったドアを見つめていたら、不動が椅子に座ってテーブルに置いてあったジュースを飲み出した。
「冷たくて美味しいな。」
不動の長い指先がグラスに絡み、中に入っている氷をカラッカラッと鳴らした。
その仕草にドキッとした。
何でだろう?
「鷺ノ宮、顔が赤いぜ?まだ火照ってるのか?」
顔から火が吹き出そうだ・・・///。
不動ってデリカシーがない。
「慰めてやろうか?」
ボワッ!
な、な、なんてことを!
僕は恥ずかしくて、不動の座っているテーブルから離れて行き、勉強机の椅子に腰を下ろした。
「不動、ジュース飲んだら帰って。」
「何でだ?」
なんでって・・・///。
これ以上一緒にいたらどうにかなってしまいそうだからだよ!・・・とは言えない。
不動に帰って貰おうと頭をフル回転させていたら、いつの間にか不動が僕の側に立っていた。
そして僕を椅子から立たせ、先程と同じように見つめあった。
「不動・・・?」
何だか不動が緊張しているように見えるのは気のせい?
「鷺ノ宮、俺は・・・。」
不動が言い澱んでいる。
何を言いたいんだろう?
いつも鋭利に研ぎ澄まされているナイフのような力強い瞳が、今は力無く伏せられている。
だけど瞼が閉じられていても、不動の威圧感や格好良さは消えないけれど。
僕が見とれていると、不動のギュッと閉じられていた瞼がカッと見開き、僕を真っ直ぐに射抜いた。
そして静かな落ち着いた声で。
「鷺ノ宮・・・お前が好きだ。」
不動が僕に・・・僕に告白したんだ。
何の飾り気もなくストレートに。
ただ、僕が好きだって。
こんなことって!
ドキ、ドキ、ドキ、ドキ・・・///。
心臓が飛び跳ねていまにも胸を突き破りそうだ。
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